経営の進化
キャリア形成や成長はどう実現する?CARTA HOLDINGSの人的資本経営へのアプローチ【後編】
世界にEvolutionを起こす仕組み - CARTAの人的資本経営 -
小林 直道
Naomichi Kobayashi
株式会社CARTA HOLDINGS
HR本部 副本部長
全社育成責任者
2023年にCARTA HOLDINGSに復帰し、L&D(Learning & Development:人材開発)チームを発足。現在ではホールディングス横断のHR組織の副本部長として、採用および育成全般に携わっている。
CARTAが掲げる「3つの育成方針」
前回、人的資本の考え方やこれまでの流れ、また育成責任者として私が考える人の成長やキャリアについての考え方についてまとめてみました。
今回はそれらを踏まえ、CARTA HOLDINGSの人的資本経営へのアプローチについてお伝えしようと思います。
CARTA HOLDINGSは以下の企業理念を掲げています。
この中で特に大切にしているのが「Evolution(進化)」という言葉です。
(進化には様々な意味がありますが、生物学的な解釈を除いた「事物が進歩して、よりすぐれたものになること。」という定義で私たちは使用しています)
「Evolution」とは、自分たち自身の進化、関わる顧客・サービスの進化、産業や社会そのものの進化など、これまでより「優れた状態に変えて世の中を発展させていく」ことです。これが仕事を通して第一に実現するべきことであり、自分たちの存在意義だと考えています。
CARTA HOLDINGSでは、進化を生みだす理想の存在「The Evolution Factory」を実現し、世の中の進化を自ら推進する人材の創出が重要になってきます。
これに対して、3つの育成方針を掲げています。
<CARTA HOLDINGSの3つの育成方針>
- 「挑戦」の促進
- 「技術(知×力)」の向上
- 「つながり」の拡充
これら3つの方針は、前編でご紹介した「成長に必要なこと」や「人的資本モデル」とリンクしています。ですので、この方針に沿って組織運営を行えば、オーナーシップを持って進化を推進していける人材を生み出せると考えています。(下図参照)
では、それぞれどの様な考えで、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
「挑戦」の促進
CARTA HOLDINGSが求める人材にとって、非常に重要な要素が「オーナーシップ(主体性)」です。採用においても評価においてもこのオーナーシップの体現度合いに着目しており、オーナーシップの薄い方を採用することはありません。
なぜなら、受け身であったり「人から言われたのでやります」という姿勢ではものごとの本質を突き詰められず、進化を生み出せる訳がないからです。また、進化を期待してくださる顧客やパートナー、日々努力する仲間に対しても失礼です。
進化とは、試行錯誤と苦しみの果てに生まれるもので、それを超克できる人を仲間に迎えたいと考えています。
そしてその様なオーナーシップにもとづいた行動の結晶が、「今までやったことがない困難な事柄に取り組むと決めて、戦いを挑むこと」、つまり「挑戦」であると考えています。
この挑戦という行為自体には、前編で述べた「成長に必要な要素」のうち、
- 成長したいという動機形成
- 挑戦体験そのものから得られる学び
- 挑戦のその先にある「もっと知りたい」「もっとできるようになりたい」という好奇心
などが詰まっています。また自発的な挑戦が、個人やチームひいては事業における非連続的な成長の源泉になると考えています。このような理由で、自ら手を上げチャレンジができる環境や取り組みを積極的に推進しています。
CARTA HOLDINGSの社風として、意志と能力のある人に対して挑戦機会を提供するという組織運営やマネジメントがいき渡っています。象徴的な取り組みとしては、下記のようなものが挙げられます。
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- CARTA CAMP
→自ら手を上げ、一定期間に複数チームに分かれた経営陣と組んで全社の経営課題の分析・解決策立案に取り組む経営課題改善プロジェクト
- DIVE
→社内で公募されているポジションに対して手を上げ、面談やヒアリングなどを経て事業部とのマッチングを図るジョブマッチングプログラム
- DASH
→社員誰でも応募でき、案の内容次第で事業化が検討される新規事業開発プログラム
- CARTA EVOLUTiON AWARD
→個人やプロジェクトでの挑戦の結果を称え合い共に刺激を与えあう、半期に一度行われる全社員参加の表彰式
「バリュー」に基づく日常の行動や、上記の様な取り組みを通じて、個人の主体的な挑戦が自身やその周囲の人の成長にも寄与し続けることを願って、環境の整備を行っています。
「技術(知×力)」の向上
世の中に対して進化を生み出すには、それを実現するための優れた技術と深く幅広い知識・知恵が必要です。私たちは新たな技術、情報の収集はもとより、研究・体系化された論理・知識を織り交ぜることで、進化に繋がるアウトプットができると考えています。
過去の反省として「挑戦」の名のもとに、経験学習に偏ってしまい、既に世に広まっているものを一から学び直すような『車輪の再発明』を繰り返してしまうケースがありました。有限な時間の中で進化を実現していくためには、取り組んで学ぶ経験学習と、研究・体系化されたものを活かす「系統学習」の2つの学びのバランスをとることが大切であると考えます。
技術を伸ばすには、挑戦して経験として学んだことを深く理解する。またそこから自分なりに気づきを得て自分の糧にする、という深い学びが重要です。学びを深めるためのツールとして「読書」を奨励しているのは、当社の学びの特徴のひとつかもしれません。
技術を伸ばす取り組み・環境の代表例に下記のようなものがあります。
- 読書会
→社員同士が集まり1つの書籍を共に深く読み、その書籍費用を補助する制度 - OASIS
→社員の寄贈により多くの蔵書を抱え、貸出しを行う社内ライブラリ - D-Marketing Academy
→Web&デジタルマーケティングを学習できる動画eラーニングプログラム - 技術力評価会
→CARTA HOLDINGSのエンジニアが所属事業会社をまたいで相互に能力を評価する仕組み - 「NEXT GENERATION BOARD」
→選抜された少数メンバーを対象とする未来の経営幹部育成プログラム
「進化推進」を実現する上では、
- 多くの知識や思考をインプットし蓄えること
- 得た知識を別の観点から眺めたり自ら問いを立てて考えること
- 自分なりの見解をアウトプットし、研鑽を積むこと
が重要だと考えています。簡単なことではありませんが、こうした日々の取り組みや習慣が本質や最高を追求する力に結びつくと信じて取り組んでいます。
「つながり」の拡充
成長にとって良質なフィードバックは欠かせません。フィードバックは自身の現在位置と理想への差分を教えてくれる大切なメッセージです。
「自分ではできてると思ったけれど、周りの人からは全然足りてないと思われていた」というケースがありますが、これでは大切な人生の時間をいたずらに過ごしてしまうことになります。
逆に周囲の人と関係性が築けて、最適なフィードバックをもらえれば、「正しい場所で正しい向きに、正しい努力」ができるようになり、成長が加速します。
また「つながり」を広げることは、下に示すように2つの人的資本要素に影響します。
- 個人が得た知識やスキルを人脈やネットワークを活かして最大限に活用すること
(=社会関係資本の活用) - 他者からの承認によるやりとげようとする気持ち、自分ならできると思える自信の構築
(=心理的資本の醸成)
CARTAにおける「つながり」拡充の取り組みには下記があります。
-
ヒトノワラリー
→社員誰とでも行えて、相互理解を生み出す場としての1on1形式のフリートーク制度 -
バリューフィードバック
→半期ごとに全社で行われる、CARTAが掲げる7つのバリューの体現度合いについて自身が指定した人(最大5人)からフィードバックをもらえる機会 -
AJITO / Garden
→社員同士のコミュニケーション創出の場としての社内バー&社内カフェ
上記以外では2023年12月にこれまで都内で複数拠点に分散していたオフィスを1箇所に統合しました。現在の虎ノ門ヒルズのオフィスで1,000人規模の社員が出社し、コミュニケーションが取れるのも「つながり」を生み出す環境として重要だと感じています。
開放的な空間で「社内を少し歩いたら気軽に話しにいける」「対話のためのスペースがたくさんある」というのは、社員同士の交流や関係性向上にとてもポジティブに影響していると思います。
大きくインパクトのある仕事になればなるほど、一人で実現するのは困難です。
私たちが顧客や世の中に対してインパクトのある価値を提供しようと思えば思うほど、「つながり」を広げていく必要があります。
互いに影響しあい切磋琢磨することで、一人で為し得るよりも想像を超えたアイデアや結果を生み出すことができますし、さまざまな事業に携わる人材のタテ・ヨコ・ナナメの繋がりを軸に成長を生み出しています。
課題と未来に向けて
とはいえCARTA HOLDINGSの成長環境に課題がない訳ではありません。今後取り組む課題は大きくわけて2つあると思っています。
1つ目は前編の冒頭に述べた様に、キャリアオーナーシップを自覚している社員がまだまだ多くはないということです。
要因は様々ですが、主な理由にキャリアについて言及・言語化・内省する機会が少ないことが挙げられます。
CARTA HOLDINGSにいる人や組織の特徴として、「仕事が好き」「課題解決が好き」「顧客への価値提供に全力(手を抜かず最高を求める)」といったものがあります。
私自身この様な自分たちの在り方を非常に好ましく思っています。その反面、「自分や自分たちのことを考える時間より他を優先してしまう」という問題があると捉えています。
仕事の合間や一緒にごはんを食べている時も「こんな事はできないか」や「どうしたら良くできるだろう」と仕事やアイデアの話をしていることがほとんどです。私も含め、仕事に対してオーナーシップを持った人の集まりだなと感じます。一方で「自分はこの仕事でどれほど成長しただろう」や「次に何を身に着け、どんなキャリアを目指そう」といったことについて俯瞰的に内省したり、言語化する機会が相対的に少ない様に感じています。
機会として設けている1on1ミーティング(面談)でも業務の話が多く、中長期的なキャリア観について上司部下で話せている所とそうでない所でばらつきがあります。またその差が業務への熱量ややりがいなどにダイレクトに反映されているのを社内のサーベイの結果などを見て感じます。
これらを改善するための1on1の質の向上やマネジメント研修、キャリアの考え方のインストールや言語化の補助などを今以上に取り組み、キャリアオーナーシップを自覚しながら毎日に向き合う社員をもっともっと増やしていきたいと思っています。
2つ目は当社のビジネス自体が非常に高度・複雑化してきているという点です。
顧客に対してより高い価値提供を行う為に、私たちが発揮しなければいけない水準そのものが上がってきています。これはCARTA HOLDINGSが進化推進を掲げている以上、必然です。
産業やサービス、顧客の課題を解決しようとすればするほどに、より本質的で上流の産業・経営課題に向き合うこととなります。そのため
- 事業や経営戦略、上流課題の理解と総合提案力の強化
- 企画や提案を具体的な形にするBiz Dev(事業開発)力の強化
等の要素が今まで以上に重要になってきました。
これらは高い水準での
- 「分析・洞察力」
- 「戦略理解・計画立案力」
- 「リーダーシップ」
- 「コミュニケーション・交渉力」
- 「クリエイティブな思考力」
- 「信頼関係構築力」
- 「プロジェクト管理力」
を織り交ぜた多面的な問題解決力によって実現されると考えます。
このような問題解決力を持つ人材をCARTA HOLDINGSでは「高度デジタルマーケティング人材」と定義し、その創出に向けた取り組みを推進しています。
具体的には下記の3つを中心に取り組みを行っています。
- 良質な学びと自律的な成長を促す 「各種育成制度の充実」
- 実施している各種サーベイ、タレントデータを活用する「ピープルアナリティクスの実現」
- CARTAに在籍する多様な社 員を活かし伸ばす「D&Iの推進」
まだまだ志半ばではありますが、高度デジタルマーケティング人材の獲得・育成を通して、社会に対する価値提供において比類なき強みを作り、「The Evolution Factory」を実現したいと考えています。
キャリアオーナーシップのある職場を目指して
今回は前編と後編の2回に分けてCARTA HOLDINGSにおける人の成長や育成についてご説明しました。
改めて整理したことで、「色々と取り組めている」と実感すると同時に「でもまだまだ十分ではない」と思いを新たにすることができました。
私たちは「Evolution」を起こすためにCARTA HOLDINGSに集まっているプロフェッショナルであり、高みを目指し続けたいと思っています。
また、キャリアを形成したり成長することは、豊かな人生を歩む上でとてもポジティブなことですし、それらをイメージしたり描いたりすることは非常にワクワクすることでもあります。
私は、私を含むCARTA HOLDINGSのメンバーがステークホルダーと一緒になって、「より良い景色が見られた」と思える様な生き方をしてほしいと願っています。
「自らキャリアを組み立て自ら選んで仕事に取り組む」ような、自分の人生の歩み方に自覚的な人が多く集い、力強く成長し続けていける様な職場作りを、これからも全力で推進していければと思います。