経営の進化
“売れる”を、設計する―髙橋学がCARTAで挑むこと
生活者の情動と、企業の成果を自然につなぐ。副社長は「売れる仕組み」のアーキテクト

髙橋 学
Manabu Takahashi
株式会社CARTA HOLDINGS
代表取締役副社長 執行役員
天邪鬼の少年が、広告界の扉を開くまで
― 髙橋さんは、子どもの頃からどんなタイプだったのですか。
一言でいえば、天邪鬼でしたね。5つ上の姉がいて年上の懐にうまく入り込みながら居場所をつくる処世術には長けていた。その一方で、小学校の頃は先生の言葉に「それは違うんじゃないですか」と平然と口を挟むような子どもでした。既存の権威やルールを、いつも少し斜めから見て「本当にそうか?」と疑ってしまう。周りからは「お前はコピーライターに向いている」と言われて、卒業文集にもそう書いていました。結局その職には就きませんでしたが、「人と同じ見方では満足できず、世の中を動かす何かを自分の手で生み出したい」という根っこの部分は、今も変わっていない気がします。
― 「ものを売る仕組み」に惹かれた原点は、どこにあったのでしょう。
学生時代、図書部で古本市をやっていた経験が大きいです。寄贈された本を売るので元手はゼロ。ただ棚に並べるだけなら誰でもできますが、私は集まってきた本にジャンルを付けてコーナーを立てたり、客足を見ながら「5冊で300円」とセット売りを仕掛けたりしていました。
面白かったのは、価値を作る裁量がまるごと売る側にあることです。「安い」「便利」ではなく、「なんだか楽しそう」という満足度のほうを売る。ルールの中に抜け道を見つけて、やりたいことを通す感覚もありました。単品を売り切るのではなく、売れる”枠組み”そのものを設計する。そこに手応えを感じていたんです。
― そこから、広告の世界へ。
大学2年の頃に『広告批評』を読み始めたのがきっかけです。広告を通じて世の中をシニカルに切り取る視点にしびれてしまって。周囲には弁護士や官僚を目指す人が多かったのですが、私の心が動いたのはそちらではなく、世の中をもっと広く、いろいろな角度から眺められる世界のほうでした。文系の人間が、アイデア一つでものを売る。その醍醐味に惹かれて、この世界に飛び込みました。

現場で鍛えた「実現力」で情緒と数字を、往復する
― 入社後、最初に配属された現場はどんな場所でしたか。
いわゆる4マス(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)以外は何でもやる、というセールスプロモーションの部署でした。ありとあらゆる無茶な相談が舞い込む。でも、周りは百戦錬磨の先輩ばかりで、どんな相談にも解決の糸口を持っている。
象徴的だったのが、ある企業の周年企画で「富士山の山肌に、巨大なロゴを映せないか」というとんでもないオーダーが来たときです。天候の条件まで真剣に計算して、みんなで本気で検討しました。最終的に異なる着地にはなったのですが、無茶な要望に対して、現実にできる答えを必ずひねり出す。そういうチームに恵まれたことが、今の自分の土台になっています。
― 次々と新しい打ち手を実現できたのは、なぜだったと思いますか。
私は、ゼロから1を生み出すタイプではないんです。むしろ、既にある1をいくつも組み合わせて、10にできないか、新しい1にできないか、と考えるタイプ。一つひとつの手法はよくある話でも、組み合わせ方しだいで、意外に新しいものが生まれる。
それって、正直、手間がかかるんです。一つの企画を売り切るほうが、よほど楽ですから。でも、それでは面白くない。たとえばスポーツを通じた協賛の仕事なら、企業も生活者も協賛先も、三者すべてがwin-win-winになる座組みを何年もかけて設計していく。広告費をほとんど使わず、PRの力だけでものを売る挑戦もしました。共通するのは、「発信したい側」と「受け取りたい側」のズレを、いかに自然に埋めるか。組み合わせて、文脈に乗せて、売れる状態をつくる。その設計そのものに面白みを感じますね。
― キャリアの大きな転機は、どこにありましたか。
セールスプロモーション等の領域から、ダイレクトマーケティングの領域に移ったことです。それまでは生活者の「楽しそう」を起点に文脈を設計する世界でした。ダイレクトマーケティングはお客さま一人を獲得する単価はいくらか、という徹底した数字の世界です。情緒を一切そぎ落として、効率と機能だけで勝負する。それまで自分が拠って立っていた価値観が、まるごと反転するような世界でした。
当時としてはまだ発展途上とされる部署への異動が続いて、「自分のキャリアは大丈夫か」と悩んだ時期もあります。それでも、置かれた場所で咲くしかない。腹をくくって取り組むうちに、大事なピースが埋まっていきました。「広告でものを売る」と言いながら、それまでの私には、事業の成果からさかのぼって考える視点、投資対効果やLTV(顧客生涯価値)という発想が不十分でした。目先の獲得単価だけを追うと、すぐ乗り換える層ばかりが集まる。ずっと買い続け、人にも薦めてくれる本当の優良顧客は、データがすべてつながって初めて見えてくる。その厳しさと面白さに出会ったんです。
― 2017年には、「フルファネル」を掲げる部署を自ら立ち上げられました。
これは絶対にダイレクト領域に閉じる話ではないと確信していました。だから、自ら直談判して立ち上げた部署です。
当時は「認知は調査」「興味はサイト来訪」「購買は販売データ」と各段階がバラバラに眺められていました。
話題性のあるCMで好感度が上がっても、それが事業にどう効いたかはわからない。生活者が商品を知り、興味を持ち、比べ、買い、使い続け、やがて人に薦める。その道のりを一気通貫で描き、どこで優良顧客への道が分かれたのかを見極める。
それを図式化したのがフルファネルでした。広告が本当はどれだけ売上に効いていたのかを、数字できちんと証明する。それが自分の役割だと思っていたんです。
私はセールスプロモーションの時代から一貫して、「生活者の情動とものが売れる瞬間を、無理なくつなぐ」その仕組みそのものを設計することに興味がありました。いわばアーキテクトのような側面があるのだと思います。

CARTAで挑むこと―Single ID Marketingを”本物”にする
― CARTAが戦略の柱に掲げる「Single ID Marketing」(*)を、どう捉えていますか。
私が追求してきたフルファネルの発想を、一人ひとりのID単位で解いていく試みだと捉えています。この人はどんな道をたどって優良顧客になったのか、もともとどんな意識の人だったのか。それを紐解けば、いわば「1億人1億色」の解像度で、次の優良顧客を精緻に描けるようになる。まさに、私が追い求めてきたものの延長線上にあります。
ただ正直に申し上げると、私たちが掲げるSingle ID Marketingはフルファネルという視点で考えると、まだ「本物」には至っていません。
現状では生活者の解像度を上げる事で適切なメディア選択や配信効率を高めたり、購買に至る効果を可視化したりすることはできています。
でも、認知からデジタルでの接触、他社プラットフォーム経由での購入、ファン化、口コミまで——ジャーニー全体を一本の線(=Single ID)でつなげた事例は、まだごくわずかしかありません。
裏を返せば、ここは誰もまだ踏み込めていない未踏地です。だからこそ、その”本物の一件目”を、これから来てくれる人と一緒に作りたいんです。構想を、現実に動く売れる仕組みへと実装していく。その最前線に立てるチャンスは、そう多くありません。
― CARTA、NTTドコモ、電通グループという3つのアセット。ここでどんな化学反応を起こしたいですか。
データは、それだけでは、ただの数字や文字列の羅列でしかありません。そこに仮説やモデリングを加えて初めて「活きたデータ」になり、施策に落ちていきます。
ドコモには1億を超える生活者データがあり、常に更新され続けます。電通には、それを活かすべきクライアントと、解くべき課題が数多くある。そのシーズとニーズをつなぐ役割こそ、CARTAが担うべきものです。
これまで広告会社は、調査データやメディアデータは持っていても、生活者のリアルタイムな動きが常に蓄積されているわけではありません。
しかし携帯端末のデータは、生活者が今この瞬間に何を経験しているかを、鮮度高く切り取れる。流行がすぐに消費し尽くされる時代に、CARTAならこの同時代性を大量のデータで自由に扱える。
もちろん、日本では個人情報の利活用に対して「便利だが、なんとなく気持ち悪い」という感情的な壁もある。その不気味さを「便利で、しかも安全だ」という信頼に変えていく。そこにドコモというブランドの安心感が効いてくる。AIの活用もあいまって、日本のマーケティングを本気で変えられると考えています。
― 数多くの環境を経てきた髙橋さんにとって、いまCARTAで挑むことの原動力は。
同じことの焼き直しではなく、常に新しい1を生み出せる。それに尽きます。かつては一つの事例を作るのに半年かかっていたようなことを、2000人規模の仲間と、いっぺんに、たくさん仕掛けられる。生まれた小さな1を、また別の1とつないで、さらに新しい1にしていける。私がずっと得意としてきた「組み合わせて新しくする」発想が、これほど活きる場はそうありません。
― これからCARTAで仕事をする人は、どんなことが得られるのでしょうか。
これまで分断されてきたデータを束ねて、「認知から購買、ファン化までを一本の線で追う」という”本物の一件目”を組み立てる、ど真ん中の現場です。
片側には、生活者のリアルな動きを映すデータがある。もう片側には、それで解きたい企業の切実な課題がある。そのあいだに立って、「このデータとこの課題を掛け合わせたら、こんな売れ方が起こせるのではないか」と仮説を立て、モデルをつくり、実際に回して検証する。
しかも、それを一人で抱え込むのではなく、データを扱うアナリストや、プロダクトを自ら開発できるエンジニアと、肩を並べて進められる。自分の一手が、まだ誰も見たことのない景色に直結する。そういう手触りを、かなり早い段階から味わえる場所だと思います。
* Single ID Marketing = 市場調査から効果検証まで、マーケティングのバリューチェーン全体を「ひとつのID」でつなぐ次世代のマーケティングモデル。

異質が交わる場の、ハブになる
― どんな人と一緒に働きたいですか。
これまであまり接点を持てなかったタイプの人たちと、たくさん交わっていきたい。たとえば、自分でプロダクトを開発できる人。正直、会話が通じなくてバカにされないか、少しドキドキしているくらいです(笑)。でも、自分とはまったく違う言語を持つ人と組むことでこそ、また新しい1が生まれる。
「1」と一口に言っても、その中には100通りの色がある。専門性を突き詰めることは大切ですが、それだけでは硬直してしまう。知らない領域の人と接点をつくることで、新しいものが生まれる。これはきれいごとではなく、イノベーションを起こすための、極めて合理的な戦略だと考えています。
― 副社長として、ご自身の役割をどう定義していますか。
CARTAには、これまで築かれてきた素晴らしいカルチャーと、スタートアップならではの気運がある。とにかく若く、元気で、プロダクトもビジネスも自分たちで開発してしまおうという気風が、とても新鮮です。これは絶対に手放してはいけない。その一方で、2000人規模の組織として事業を営む以上、社会から見てどうか、という判断軸もきちんと築いていく必要がある。この両立のバランスを取り、これまで培ってきた経験と人とのつながりを最大限この会社に還元する。そして、多様な点と点をつなぐハブになる。それが私の役割だと考えています。
― 最後に、これからCARTAで挑戦したいと考えている方へ、メッセージをお願いします。
いま私たちは、AIやSingle ID Marketingによって、マーケティングの当たり前が根本から書き換わる、その過渡期のただ中にいます。答えのない問いばかりで、正直、しんどい場面も少なくありません。でも、だからこそ面白い。それに、うまくいかなかったところで、命を取られるわけじゃない(笑)。
情緒とロジックを往復しながら、まだ誰も本物にできていない「売れる仕組み」を、一緒に設計し、実装していく。その一件目を、あなたと作れることを楽しみにしています。



