事業の進化
どんな経験も、必ず繋がって自分に返ってくる
「自分の領域」に線を引かない。 広告で“幸せな出会い”を創り出すCARTA ZERO江藤雄大の挑戦

CARTA ZEROの江藤雄大が目指すのは、Single ID Marketing(*)を軸に、クライアントだけでなく生活者も幸せにする「三方よし」の未来です。
そのビジョンの背景には、「知らなくていいことなどない」と奔走した若手時代と、経営経験による視座の転換がありました。
自らの領域に線を引かず、広告の新しい景色を作ろうとする彼の挑戦に迫ります。
* Single ID Marketing = 市場調査から効果検証まで、バリューチェーン全体を「ひとつのID」でつなぐ次世代マーケティングモデル
江藤 雄大
Takahiro Eto
株式会社CARTA ZERO
マーケティング管轄 副統括
2026年にD2CがCARTA HOLDINGSにグループ入りし、現在は株式会社CARTA ZEROマーケティング管轄副統括を務める。
「まずは飛び込んで、やってみる」──すべての経験を自分の「引き出し」にする
―これまでの経歴について教えてください。
大学・大学院では芸術工学を専攻し、建築や環境設計、デザインストラテジーなどを幅広く学びました。もともと空間デザイン全般に興味があったのですが、ひとつの専門分野に絞るよりも、グラフィックやイベント、Webなど多様な領域を横断できるほうがデザインの考え方をビジネスの場に広く活かせると思い、広告業界を志したんです。
スマートフォンが普及しはじめたばかりの時期で、モバイルというデバイスが現実の空間や世の中のコミュニケーションにどう影響を与えていくのか、その可能性にすごくワクワクしてD2Cへ入社を決めました。
入社後はコミュニケーションデザイン本部に配属され、デジタルプロモーションなどの企画進行を担うプロデューサーとしてキャリアをスタートしました。
入社1年目の1月には、電通への常駐が決まります。配属先はD2Cとして前例のない営業局。それまでの常駐や出向先といえばデジタル領域で、営業側に籍を置いて上流から関わるのは初めてだったんです。
まだデジタルの黎明期で、広告業界全体としてもデジタルの知見を手探りで蓄積しているような時代でした。そんな最前線に、新卒1年目の私がいきなり突っ込まれたわけです。
辞令を受けた時は正直驚きました。ただ不思議と、不安や戸惑いといったマイナスな感情は全くありませんでした。前例がないなら面白そうだし、自分の仕事が広がるイメージを持てたので、「まずは飛び込んで、やってみよう」という気持ちのほうが勝っていました。
―現場での経験はいかがでしたか。
常駐先では、デジタルの領域に捉われず、TVCMと連動した大型キャンペーンからラジオ、雑誌、OOHの企画、店頭販促キャンペーン、イベント企画、キャスティングまで、 プロモーションを成立させるためのありとあらゆる実務に泥臭く携わりました。
企画やデザイン表現、他施策との連動はもちろん、「景品表示法や薬機法(旧薬事法) などの法律をどうクリアするか」、キャンペーンの場合は「利用規約や事務局、景品などのフローをどう設計するか」といった、プロモーションを成立させるために必要な骨組みをすべて自分で組み立てる必要があったんです。
1年目でWebCMの撮影現場に一人で赴き、プロダクションや撮影スタッフから「今の演技でOKを出しますか?」「商品はどちらの手に持たせましょうか?」と次々に判断を求められる場面もありました。当時は知識も経験もあまりありませんでしたが、プロジェクトを動かす当事者として、その場で正しく判断し答えを出し続けるしかありませんでした。
法律の知識を頭に入れれば理想だけを語るのではなく、 実現可能なプロモーションが企画できる。事務局の運用フローが分かれば、クライアントの気にするポイントが見えてきて、あらゆるプレゼントキャンペーンの全体像を把握し動かすことができる。
当時はそこまで見通せていたわけではなく、ただ必要に迫られて手探りで走り回っていただけでした。
でも振り返ると、ただ降ってくる仕事を待つのではなく、自ら手を伸ばしてあらゆる経験を取りにいったことが、単一の専門性に閉じこもらない「ゼネラリスト」としての土台になっていたんだと思います。

経営の視座が変えた、クライアントへの「本当の向き合い方」
―その後、目の前の案件を動かすプレイヤーから、マネジメント、そして経営を担う立場へと役割が変わっていきます。
入社6年目の頃にグループ会社の取締役に就任したのですが、そこがキャリアの大きな転換点になりました。組織を牽引してビジネスを成立させる側に回ったことで、視点が変わったんです。
最初に役員から言われたのは、「マネージャーまでの思考を一度全て捨てる」という、厳しくも本質的な言葉でした。マネージャーでは半年先、せいぜい1年以内のことを考えていれば成立していた。でも経営を担う人間はそれでは足りない。「明日の数字に一喜一憂するな。1年後・3年後さらに先のビジョンを描いて、逆算しながら動け」——これが今でも自分の判断の軸になっています。
PL(損益計算書)BS(貸借対照表)を実際に細かく見るようになって初めて、「お金を出す側の感覚」が本当の意味で理解できました。クライアントが年間1億円の予算を投じるというのは、その会社にとってどれだけの覚悟を持った決断なのか。そのことをリアルに想像できるようになったのは、自分が経営側に立ってからでした。
テクノロジーが進化し、クライアント自身でも手軽に出稿しやすくなった今の時代、広告会社の存在意義そのものがシビアに問い直されることもあります。
しかしクライアントの課題に真摯に向き合い、その価値以上のものを返せるなら、私たちがいる意味は必ずある。そう思えるようになったのも、この経験があったからです。
―経営の視座を得た時、若手時代の経験があらためて繋がって見えてきたのでしょうか。
仰る通りです。
経営側に立って実感したのですが、クライアントは決して1つの施策や物事だけで判断しているわけではありません。年間やさらに長い期間を通じた生活者やお客様との接点をどう作っていくかという「線」の目線で課題解決に取り組んでいます。
それに応えようとした時、自分が若手時代にがむしゃらにやってきた経験がすべて必要なものだったことに気づいたんです。デジタル領域だけでなく、リアルイベントや店頭販促、裏側の事務局や法律まで知っていたからこそ、その無数の引き出しを組み合わせることで、クライアントと同じ視点で「線」の提案ができました。
1年目のあの撮影現場も、必死にやった景品表示法の勉強も、当時はそれぞれが孤立した「点」でしかなかったものが、全て1本の線として繋がっていたんです。
スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」という言葉がありますが、本当にその通りで、点は後からしか繋がらない。
それに気づいたとき、広告・マーケティングのテーブルの上で行われている全てのことに、自分に関係のない領域、物事なんて1ミリもないし、知らなくていい仕事なんて一つもないのだと腑に落ちました。

広告は本来、「幸せな出会い」であるはずだ
―現在の役割について教えてください。
NTTドコモが持つ1億超の会員基盤を活用した「Single ID Marketing」という新たなマーケティングアプローチの事業推進を担っています。これまで分断されていたデータやマーケティングプロセスを1つのIDでシームレスに繋ぐことで、ユーザーが「今、何を求めているのか」というリアルな文脈を正確に捉える。そして的確に届け、計測する。NTTドコモの圧倒的なデータアセットを活用して、クライアントの事業課題を解決していくのが私たちのミッションです。
クリエイティブ、データ、そしてビジネスの全体設計、これまでの私のキャリアのすべてが繋がる場所ですし、何より、世の中のマーケティングをアップデートできる領域だと思っています。
―江藤さんがこの仕事に熱くなれる理由はなんでしょうか。
クライアント、生活者だけでなく、私たち広告会社やパートナーも含めた「三方よし」の世界を、綺麗事ではなくビジネスとして本気で社会に実装できると信じているからです。
今のデジタル広告は、データを細かく分析しながら「どんな人に、どんなタイミングで広告を出せば一番効果が出るか」を自動で最適化する仕組みがすごく進化しています。クライアントの事業成長に貢献するために、私たちも日々、課題や想いに向き合って成果を最大化させることに全力でコミットしています。
ただ、「クリック率」や「購入率」といった効率の数字を上げることだけに集中していると、ふと「今、この広告を受け取る生活者の顔が浮かんでいないな」とハッとする瞬間があるんです。もちろん目標である指標の数字が良くなれば、クライアントの売上が上がり、私たち広告会社も評価される。ビジネスとしてはそれで成立するのですが、一方でそれを受け取る生活者にとって、その広告は本当に「良い出会い」になっているだろうかと。
―ビジネスとしては成立していても、生活者の視点が抜け落ちてしまうことがあると。
ええ。本来、広告って生活者にとっても新しい発見や、欲しいものに出会えるきっかけになるはずなんです。
例えばお茶が好きな人に「新しい紅茶が出ましたよ」と生活動線上で自然に届けば、それは有益な情報になりますよね。
自分が知らなかった良いものに出会える。必要としていた情報が、ちょうどいいタイミングで届く。好きなブランドの新しい展開を誰よりも早く知ることができる。そういった体験は、広告によって生まれうるものです。
ところが実際には、自分と無関係な情報が繰り返し流れてくる体験が積み重なり、「広告はノイズだ」と少しネガティブな印象を持たれてしまうこともあります。
これは広告本来の姿ではないし、クライアントにとっても生活者にとっても、本来あるべき関係性ではないと感じています。
生活者一人ひとりのモーメント、思いに合った情報が届けば、広告は邪魔な割り込みではなく日常の「ちょっと嬉しい」出会いになる。
Single ID Marketingはその「三方よし」に近づくための強力な一歩です。

最後に人を動かすのは表現。変わり続ける「クリエイティブ」の定義
―精度の高いデータ分析で最適な人にアプローチできれば、「三方よし」は実現できるのでしょうか。
どれだけ高度なデータ分析をして「最適な人」を見つけ出しても、最終的に生活者の手元に届くものは、データや媒体情報ではなくあらゆる「クリエイティブ」なんですよね。コピーやグラフィック、動画、イベントといった「表現」と「体験」です。
だからこそ、最後に人の心を動かすその部分に徹底的にこだわらなければ、本当の三方よしは実現できないと思っています。
私自身、元々は「クリエイティブをやりたい」という想いでこの業界に入りました。当時は、グラフィックやWebサイト、動画などの「目に見えるかっこいい表現を作ること」がクリエイティブ職の仕事だと思っていました。
しかし、様々な領域を経験する中で、その捉え方は変わっていきました。目に見える表現だけでなく、クライアントの市場を理解し、ターゲットへの届け方を設計して戦略をつくる。そして最後に「本当に人が動いたか」までを検証する。その見えないプロセス全体をデザインすることも、クリエイティブだと気づいたんです。
今はAIが効率的な正解を出してくれる時代ですが、最後に人の心を動かすのは、やはり感情を大きく揺さぶる「体験」です。データを使いこなした上で、そこに人の発想を掛け合わせる。そう考えると、マネジメントや事業推進も、クリエイティビティの塊だと思っています。
予定不調和を面白がり、自らの「意志」を持って答えを出す
―データもAIも進化する中で、広告の仕事を面白がり続けられるのはどんな人だと思いますか。
1つは「自分の仕事はここまで」と線を引かない人ですね。若手時代の自分もそうでしたが、やりたいことと求められることが一致しない場面は必ずあります。そこで「これは自分の領域じゃない」と判断した瞬間に、成長も発見も、仕事の広がりも止まってしまうと思っています。
クリエイティブをやりたいけど法律の確認を任される。データ担当なのに表現の議論に引っ張り込まれる。そういう予定不調和な体験をどう面白がれるかで、5年後のキャリアはまったく違ってきます。
仕事をする上で知らなくていいことなんて本当に1つもないし、どんな経験も必ず繋がって自分に返ってくる。それを信じて動けるかどうかが分かれ目になる気がします。
そしてもう1つは、自分の答えを出せる人。完璧でなくていい。間違っていてもいい。でも、どんな問いに対しても自分の考えを持ってまず動ける。AIがどれだけ進化して効率的な正解を出せるようになっても、その「意志」こそが人間の持つクリエイティビティであり、決して代替できない領域です。
そういうスタンスを持った仲間たちと一緒に、まだ誰も見たことのない新しいマーケティングの景色を作っていけたら最高ですね。



