テクノロジーの進化
新旧CTOが語るCARTAのエンジニアリング、そして未来―「事業を推進できるエンジニアを育てたい」
社会的課題を見つけるところから取り組む、CARTAのエンジニアたち
鈴木健太
Kenta Suzuki
株式会社CARTA HOLDINGS 執行役員CTO兼
株式会社fluct取締役CTO
小賀 昌法
Masanori Koga
――小賀さんがCTOを退任しようと思ったきっかけは何ですか?
小賀昌法(以下、小賀):一番大きいのは、50歳を迎えたこと。まだまだ体力的に問題なく働けるであろう50代で、何をやるか考えたことがきっかけです。ただ、会長の宇佐美さんとCARTA HD(以下、「CARTA」)のCTOの在り方について話をする中で、私からは「CTOをすずけんに任せたい」とずっと伝えていました。
本来CTOは、経営層の一員として、テクノロジー領域の観点から事業や経営をドライブしていくのが役割。でも私は、CTOに就いていた10年を通して、その領域を越え、さまざまな分野に携わってしまった(笑)。たとえば、エンジニア部門の環境整備や採用に関わるVPoEだったり、情報システム関連を担うCIOだったり、セキュリティ責任者であるCISOの領域だったり。完全統合してCARTAとなり、1500人以上の社員を抱える組織となった今、それぞれに専任のポジションを設けたほうが今後にとってプラスだと考えたのです。であれば、CTOはすずけんだと思い、今回お願いすることにしました。
――鈴木さんは、新CTO推薦の話を聞いたときどう思われましたか?
鈴木健太(以下、鈴木):最初はびっくりしました。でも今の開発の文化が好きですし、これからも大事にしていきたかった。この文化を築いてきた小賀さんが推薦してくれたのだからやるべきだと、引き受けました。正直まだ不安はあります。引き継ぎを進めてきたこの数カ月間でも、小賀さんが携わっていた業務の幅広さを目の当たりにしました。スーパーサイヤ人ですよ(笑)
小賀:(笑)
鈴木:ただ小賀さんの方法をそのまま受け継ごうとするのではなく、私なりに分解して、リファクタリングして、組み直すことが大事だと思っています。今いるエンジニアやこれから入社する人に価値を与えられる組織となれるよう、体制を作っている最中です。
――今後、小賀さんはCARTAとどのように関わっていくのでしょうか?
小賀:CARTAが抱えるエンジニアリングの課題について討議する「Tech Board」という組織が立ち上がったので、そこのアドバイザリとして関わっていきます。私が持つナレッジや社外で得た情報、マインドなどを伝え、CARTAに取り入れていきたいですね。
また、VOYAGE GROUPでは私が初代CTOだったため、CTOとしての課題を共有できる人が、社内にはなかなかいませんでした。そんなときに始めた、他社のCTOと接点を持てる社外活動は、知らなかった業界について触れる機会がいくつもありました。すると世の中には、ITやソフトウェアの力を活かしきれていない事業がまだまだたくさんあることが見えてきたのです。そうした領域に対して、テクノロジーでチャレンジしていくこと。これが50歳の自分がやるべきことだと思いました。
――CARTAのエンジニアリングにおける強みとは何でしょうか?
鈴木:一つ目は、優秀なエンジニアが多いこと。二つ目は、技術力評価会を通して、CARTAが大事にしているエンジニアリングの考え方や文化を再確認できること。三つ目は、事業やプロダクトを作り、世の中に発信していくことの意義を理解しているエンジニアが多いこと。そして最後は、「今何をするべきか」「どういう順序でプロダクトを作るか」など、何においても自分の頭で考え、自分事として捉える習慣を持つ人が多いこと。この4点は、CARTAの文化であり、資産でもあります。
小賀:コード1行にしても「なぜこう書いたのか」と説明できる習慣が根付いているのは、うちの文化の特長だね。エンジニア自身が、サービスを作る理由や課題を根本的に理解しているから、「こうしよう、ああしよう」というアイデアも出せるし、すずけんが言った4点は強みだと思う。
鈴木:上からの要望通りにやるのではなく、社会的課題に対して職種を超えて一緒に考えるのがCARTAのエンジニアリングのスタイル。むしろ課題を見つけるところから社員みんなで向き合っていくのは、すごくいい風土ですよね。
自分の頭で考える習慣は、技術力評価会で開発プロセスや意図を議論することで醸成された文化です。でもそれだけではありません。事業開発者とエンジニアの間では「なぜ今それを作るのか」「どのように作るか」という会話が日常的に繰り広げられており、こうしたコミュニケーションによって、自然と自分で考えることが当たり前になっている。これはエンジニアに限ったことではないですね。
――一方、どこに課題を感じていますか?
鈴木:まず、エンジニアの多くがサーバーサイドに強いこと。もちろんこれは利点でもありますが、見方によっては弱みにもなります。たとえば新しくサービスを作ろうとしたとき、CARTAではネイティブアプリよりもWebアプリで作る傾向が強いです。でも世の中から「もっといい技術があるのでは?」と問われると、確かにそうかもしれないな、と。ただ技術の選択肢を増やしたくても、新しい技術に対して知見がある人やフィードバックできる人が社内にいない限り、その方法を開発に取り入れていくのは難しいですよね。もちろん社外から評価者を呼んだり、業務委託の方とパートナーになったりする方法はありますが、組織のコア技術まで育てていくには時間がかかります。
あとはエンジニアを増やしづらい点も課題です。CARTAの文化やエンジニアリングにフィットする人を採用しようとすると、一度に多くの人材は採れません。でも新しいサービスやプロダクトの立ち上げに際し、エンジニアを一気に増やしたい場面もあり、難しさを感じています。
小賀:CARTAにフィットするかはもちろん、組織の価値基準が上がっているから、採用基準も自ずと厳しくなってしまっているね。最初は基準に及ばない人も、成長しながら活躍できる環境をどのように整えるかは、組織としての課題だと思います。
鈴木:そうした分野にもエンジニアリング要素を取り込めたらいいですね。今、株式会社fluctにある、顧客の利便性やカスタマーサポートのレベルアップを専門にしたエンジニアリングチームのように、採用や評価制度をはじめ、バックオフィス部門にも、エンジニアが入って技術を使うことで、レバレッジを効かせることができるんじゃないかと考えています。
小賀:今後は、ソフトウェアエンジニアリングが属人的ではなくなり、他の業種や職種にエンジニアリングが溶け込んでいくことになります。そのとき、会社としてエンジニア職の定義付けやエンジニアリングの文化を再構築することが、また今後の課題となってくるんだろうね。
――小賀さんは、新CTOとしての鈴木さんをどのように見ていますか?
小賀:すずけんの動きを見ていると、もっと早くCTOをお願いするべきだったと、つくづく感じます。私が選択しなかったアプローチも試みていて、それも含めて新しいチャレンジを周りから応援されています。それはすずけんが、今までを否定せず、もっと良くするための方法を模索しているから。すごく上手に動けていると感じるので、加速させてほしいです。
鈴木:小賀さんが退任し、どう変わるんだろうと不安に思う社員もいます。同時に「鈴木は何をするんだろう」と期待を寄せてくれるタイミングでもあるので、期待値を超えられるようにチャレンジしています。
――小賀さんからアドバイスはありますか?
小賀:私のときは、他の経営陣から相談を受けることがよくありました。今後はすずけんも、CEOや他の役員から信頼され、経営や事業レベルの相談事をされる立場となります。そのとき、現状と理想のギャップを埋める方法、その方法が会社の方向性と合っているか、というのを考え、意思決定する場面が出てきます。時折、意思決定を間違えることもたくさんあるんですよ。最初の判断がうまくいかず、「すみません、軌道修正します」ということがたくさんある。だけど意思決定を恐れないでほしいです。「いくつか失敗するかもしれませんが、経営陣でフォローをお願いします」と伝えて、どんどん判断していくべき。意思決定の数だけ成長していくのだと思います。
鈴木:はい。経営陣となると影響を与える人が多い分、失敗したときの影響範囲も広いと感じています。
小賀:それも、失敗もあるんだよ、ということを背中で見せていけばいい。私もいっぱい失敗してきました。
――今後、鈴木さんはCARTAのエンジニアリングをどうしていきたいですか?
鈴木:まず、根幹には事業を推進し続けたいという気持ちがあります。既存の事業を伸ばすことや新しい事業を生みだすことを続けなければ、会社の推進力や価値は失われ、組織として衰退してしまいます。永続的に事業を推進するために、エンジニアがプロダクトを生み出せる土台作りをし、エンジニアの育成や評価の領域を強化していくことにコミットしたい。特に、先ほど課題と話した採用は、エンジニアリングの在り方と方向性を定めた上で、注力していきたい重要なミッションだと思っています。
あと、技術の多様性を広げていくこと。社内では浸透していない技術でも、市場的に重要性が高ければ、取り入れていかなければいけません。
小賀:事業成長に必要な技術と分かれば投資しやすいけど、必要か否か断定できず、投資しづらいものに関しては、社内で持っている知見を最大限に活かしたり、外部の力を借りたりしながら、強化していくべきだよね。
鈴木:そうですね。一度事業として立ち上げ、技術をプロダクトに組み込んでリリースすれば、その技術を継続的に学べる体制は築けると思います。今はまだ社内にない技術をコアにした事業を生み出せると、そのチームで技術が育ち、全社に還元されるというサイクルを生みだせるので、そこにはトライしていきたいです。
事業推進に向かう上で、私が信じているのは、やはり個々の才能です。その才能を発揮するために、エンジニアたちが感化されたりアイデアの素材を得られたりする機会の多い教育体制や採用を実現していきたいです。
小賀:会社の文化的に、画一的な教育がまったくフィットしなかったよね(笑)。
鈴木:そうなんです。現場のプロダクト開発で学びがある環境自体はとてもいいことですし、強みであることに変わりはありません。とはいえ、丁寧な研修体制のもと社員教育をしている他社を見ると、事業部内だけでは引き出しきれていないスキルを発見し、伸ばしてあげる仕組みづくりもしていきたいですね。
――最後に、新生CARTAへの意気込みをお願いします!
鈴木:今話したことをしっかりと言語化して、社内にも社外にも伝え、まずは自分なりのアクションを起こしていきます。小賀さんの仕事ぶりは真似できない部分もたくさんありました。でもセキュリティ基盤や情報システムといった、守りの部分も含め、ひとつひとつ紐解きながら自分のやり方に置き換えて、事業を伸ばしていきたいですね。
小賀:テクノロジーで事業をドライブするCTOの役割は、今後のCARTAにとってますます重要になります。そんなCTOが事業を創ること、攻めていくことに信念を持って臨むのは、とてもいいこと。すずけんが経験してきた、ソフトウェアをベースにしたプロダクトのエンジニアリングは、経営に活かせる考え方がたくさんある。その視点から経営に携わっていけば、CARTAはさらに良くなると期待しています。
【お知らせ】
CARTA HDのTechBlogに、前編/後編にて、より詳細な対談を紹介しております。ぜひご覧ください。
2022年2月18日のDevelopers Summit(デブサミ)にて、CTO鈴木と小賀が登壇いたします。
・日程:2022年2月18日(金)15:05~15:50
・内容:2022年からCTO交代!新旧CTOが語るこれまでの10年とこれからのエンジニア組織と文化