カルチャーの進化
男性営業マネージャー育休6ヵ月「ライフイベントは、キャリアを豊かにする転機になる」
家族のピンチを乗り越え、チームとキャリアの次を拓くまで

株式会社CARTA ZEROで営業マネージャーを務める菱田正敏は、第二子誕生を機に6ヶ月間の育児休業を取得しました。その動機は「家庭が大変なときは、自分も一緒に向き合いたい」そして「子どもの成長に向き合える今を大切にしたい」という、父親としての願いでした。
この6ヶ月間を経て、彼と周囲は想定していなかったものを得ました。それは家族、キャリア、そしてチームを超えて部署全体に及びました。一体何があったのか、菱田に聞きました。

菱田 正敏
Masatoshi Hishida
株式会社CARTA ZERO
プロダクト局 セールスイネーブルメントグループ
リーダー
2020年第一子誕生、育休1ヶ月取得。2024年第二子誕生、育休6ヶ月取得。
2025年6月に育休から復帰しセールスイネーブルメントグループを立ち上げた。
子どもと過ごす時間は短い。仕事はいつでもできる。
―6ヶ月間という長期の育児休業を取得しようと考えたきっかけについて教えてください。
一番の理由は、家族との時間を大切にしたかった、ということです。仕事はいつでもできるけれど、子どもの成長はその一瞬しかありません。
特に、知り合いから「父親として子どもと一緒に過ごせる時間って、思っているよりずっと短いよ」と聞いて、ハッとしたんです。その「瞬間」を何よりも大切にしたい、と思いました。
実は独身の頃は男性が長期で育休を取ることに対して、どこか他人事でした。だからこそ、自分がその立場になったときに、良い前例を作りたいという気持ちが芽生えました。
僕が取得することで、後に続く人たちが家庭と仕事のどちらもあきらめずに前に進める、そんな会社になったらいいな、と。
「戻る場所がなくなる」。不安を払拭してくれたのは周囲の声
―不安はありませんでしたか。
不安は大きかったですね。一番は、チームのメンバーに大きな負担をかけてしまうのではないか、という罪悪感。そして、半年も現場を離れたら、自分のスキルは陳腐化して、もう戻る場所はなくなってしまうかもしれない、というキャリアへの不安。ある種の覚悟はしていました。
―周囲の反応は。
上司に相談したら、「めちゃくちゃいいと思うよ!戻って来る場所はちゃんと用意しておくから」と即答してくれて。チームのメンバーも前向きに送り出してくれたんです。本当にありがたかったです。
そして何より、家族の言葉が一番の支えになりました。
いざ育休がはじまると、妻が「パパがいる安心感って、やっぱり段違いだよ」と言ってくれて。その一言で、自分の決断は間違っていなかったんだと、心から思えました。
今回は二人目で上の子もまだ幼児。親が一人で乳児と幼児を二人見る時間が続くと大変です。親子の比率1:1の状況を作れたのが妻の気持ちを軽くしたようです。

3ヶ月前から入念な準備を開始
―とはいえ、営業現場のマネージャーが長期間離れるのは難しいイメージもあります。
結論からいうと、「菱田がいる前提のチーム」から「菱田がいない前提のチーム」にする準備をしました。前例を作りたい気持ちがあるので、私が離れたあとのチームを何としても成功事例にしたかったのです。
どのような形にするのか、様々な人と協議しながら3ヶ月ほどかけて準備。納得して協力してもらえるようにコミュニケーションにも気を配ったのですが、最初から皆協力的で本当にありがたかったです。
育休が長いほど良いとは思わない
―キャリア以外にも不安な点はありませんでしたか。
制度面でも気にするべきことはあります。厚労省の育児休業給付金が実際に入金されるのは、育休開始から4ヶ月後なんです。夫婦がふたりとも育休に入るとその間、収入はゼロになる。
結婚と出産は大きな出費が重なるじゃないですか。家と車を買って間もない時期でしたし、やりくりが大変なこともありました。固定費や投資を見直して乗り切りましたが、これはリアルな課題だと痛感しました。
私の場合は労務にサポートしてもらい、お金のシミュレーションを作ってもらったんです。金銭的な見通しを立てる上で大きな助けになりました。こんなことまでしてもらえるんだ!と驚いたのを覚えています。
育休を検討した知人の中には、夫婦で相談した結果、育休期間を初期構想より短く設定したという人もいます。その理由はお金に限りません。キャリアなど人生の計画は人それぞれです。育休は長いほど良いかのようなイメージを持っている人もいるかもしれませんが、私はそうは思いません。状況にあわせて長くとれる選択肢が持てる、ということが本質だと思います。
終わりなき家事育児と、妻の体調不良。ピンチの先に見えた「チーム菱田家」
―実際に始まった育休生活はいかがでしたか。
想像を絶する、というのが正直な感想です(笑)。育休は決して『休み』ではありません。料理に洗濯、掃除、そして新生児の世話…。「家事は全部私がやる!長女のお世話も全部やる!」という自分の中での決意もあったのですが、やってもやっても終わらない家事と育児に追われる毎日で、終わりが見えない感覚に精神的に参ってしまいそうな瞬間もありました。
そんな中、追い打ちをかけるように、妻が倒れてしまうという緊急事態も発生しました。本当に大変すぎて逆に思い出せないぐらい、もがく日々でした。でも、夫婦二人で必死に乗り越えたことで、本当の意味での『戦友』になれた気がします。
長女と二人きりで過ごす時間もたくさん持てて、その中で娘との距離がぐっと縮まったのを感じました。お金には代えられない、本当に濃密な時間でした。

マネージャーは居座らず挑戦する背中を見せよ
―仕事のことは気になりませんでしたか?
チームのことが気にならなかったわけではありませんが、育児に集中することで、良い意味で仕事のことを忘れられたんです。そうやって一度完全に離れたからこそ、自分のチームを客観的に見つめ直すことができました。そんな中、メンバーから「売上が昨対比110%を超えました!」という嬉しい報告があって。僕がいなくても、いや、僕がいないからこそ、メンバー一人ひとりが当事者意識を持って自走してくれている。それが何より嬉しかったですね。
誰かに任せること、そして信じて待つこと。育児を通して学んだその姿勢は、奇しくもマネジメントの本質と重なっていたのです。
育児もマネジメントも、自分がすべてをコントロールしようとしてはいけないんですよね。今回の経験を通して、「マネージャーはメンバーを信頼して任せたら、あとは現場から早くどいたほうがいい」という、自分なりの一つの答えに辿り着いた気がします。

自分抜きでチームは好調。さて、どうする?
―復帰後、チームやご自身に何か変化はありましたか?
チームの雰囲気は、明らかに変わりました。僕が半年休んで問題なく戻ってきたという事実が、「育休は特別なことじゃない」という空気感を生み出してくれたようです。
働き方に対する柔軟性や、お互いをサポートし合う文化がより一層浸透したと感じます。実際に、男性メンバーから「育休を取りたいんですけど」と相談を受けたときは、本当に嬉しかったですね。
―元のチームを離れたと聞きましたが。
代わりにマネージャーを引き受けてくれた人のマネジメントもうまくいき、チームの状態は良好。そこにまた「マネージャーです」って戻っていくのは寒すぎるじゃないですか(笑)。
実は育休に入る前にある程度想定して上司と相談を進めていました。復帰してすぐに具現化に向けて検討をすすめた結果、局を横断して営業組織の生産性向上を推進する『セールスイネーブルメントグループ』の立ち上げを任されることになりました。
プレイヤーとして最前線に立つことから、組織全体を俯瞰し、仕組みで支える役割へ。前から取り組みたい課題でしたが、今回のこともあって自分の中でも踏ん切りがついたと思います。

育休が好循環のきっかけに。仕事でもっと挑戦できる自分に。
―この期間を通して、学びがあり、前進するきっかけにもなったのですね。
今は自信を持って「家族を大切にすることが仕事にも良いことだ」、と言えます。不思議なことに、家族を一番に考えるようになってからの方が、仕事の質も上がったように感じるんです。
家庭が安定しているからこそ、仕事に集中できて、新しい挑戦にも意欲的に取り組める。この好循環を、身をもって実感しています。
誰もが「いてよかった」と思える組織にしたい
―今後の展望について考えていることはありますか。
僕自身が何か特別な『ロールモデル』になろう、とは思いません。ただ、「あの人も育休を取れたんだから、自分も大丈夫かも」と思ってもらえるような、身近な『実例』になれたら嬉しいです。
育休のことなら、菱田に聞けばいいよ、と言ってもらえて、次の挑戦者の背中を押せたらいいですね。仕組みの面では、男性が育休に入るときの支援パッケージが未整備な部分があると感じました。そういった点の改善に貢献できるといいなと思います。
―ライフイベントを、キャリアをより豊かにする転機にしている印象を受けました。
性別に関わらず、すべての社員が、人生のあらゆる局面でキャリアとプライベートの挑戦を両立できる。そんな文化を、この会社にしっかりと根付かせていきたい。
大げさなことではなく、一人ひとりが『この会社にいてよかった』と心から思える。そのために、これからも自分自身の『半歩先の挑戦』を続けていきたいと思っています。
