経営の進化
キャリア形成や成長はどう実現する?CARTA HOLDINGSの人的資本経営へのアプローチ【前編】
キャリアオーナーシップを持った社員の創出に向けて
『キャリアオーナーシップ経営』とは、「キャリアや仕事を主体的に捉え、自律・自走しながら周囲と共創できる人材を増やし、個人と組織の持続的な成長を実現していく経営」と定義されています。
キャリア形成は多くの働く人にとっての関心事であると思います。所属する企業のキャリア形成に対する考え方を理解するのは大切です。しかし一方で、自身がどの様な成長を実現していくかについては、日常の中で十分に対話したり考えたりできていない方が多いのではないでしょうか。
今回はCARTA HOLDINGSの人の成長と育成における「考え方」と「具体的な取り組み」を、グループ全体の育成責任者である小林 直道が紹介します。
小林 直道
Naomichi Kobayashi
株式会社CARTA HOLDINGS
HR本部 副本部長
全社育成責任者
2023年にCARTA HOLDINGSに復帰し、L&D(Learning & Development:人材開発)チームを発足。現在ではホールディングス横断のHR組織の副本部長として、採用および育成全般に携わっている。
はじめに
CARTA HOLDINGS でグループ全社の育成責任者を担当している小林と申します。
今回、「キャリアオーナーシップ経営 AWARD 2024」において、CARTA HOLDINGSの取り組みをご評価いただきました。
このAWARDは、国内における人的資本経営の土壌を整え推進されてきた一橋大学の伊藤 邦雄先生や法政大学の田中 研之輔先生、カゴメ株式会社の有沢 正人常務執行役員をはじめ、これまで先頭に立って人的資本経営の体現・浸透を推進してきた皆さまによって2023年度から始められたものです。
「企業に属する従業員を企業価値の源泉として教育・投資を行い、社会への提供価値の最大化を実現していこう」とする人的資本経営は世界的な潮流となり、勢いを増しています。このような中、CARTA HOLDINGSの人に対する向き合い方や取り組み方を評価して頂き、栄誉ある賞を受賞できたことを非常に喜ばしく思います。
しかし、多くのCARTA HOLDINGS社員は「キャリアにオーナーシップを持つなんて、できている実感がない」と思っているのではないでしょうか。
私としてもまだまだ理想の状態とは考えていませんし、取り組みが十分に伝わっているとも思っていません。そこで今回の受賞を機に、改めてCARTA HOLDINGSの人的資本に関する考えを整理して発信したいと思います。
キャリア形成・人の成長とは何か
そもそも「キャリアを形成する」「キャリアにオーナーシップを持つ」とはどういうことなのでしょうか?
よくキャリアの語源は馬車の轍(わだち:車輪の跡)だと言われ、「自分が進んできた道のりや足跡を振り返った時に気づくもの、理解するもの」だと言われてきました。
しかし、私はキャリアとは過去、現在、未来を繋いで考えるものだと捉えています。
結果論としてのキャリアや、「生存者バイアス(注1)」に陥った観点でのキャリアではなく、もっと明るく心が躍るように考えるものだと思っています。
私自身の3度の転職や、営業から人事へといったジョブチェンジを行う中で、「成長とは、キャリアを作るとは一体何なのだ」と幾度も考えてきました。その結果、自分なりにいくつかの「成長にとって大事なもの」を言葉にすることができました。
現在は下記の指針をベースに、育成施策や制度を考案・実施しています。
(注1:失敗した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に判断をしてしまうこと。ものの見方。)
成長 / キャリアに関する考え方
成長の定義
成長とは「能力が上がって、より大きな責任と裁量と自信を持てて、新たなチャレンジができるようになる」こと
成長に必要なこと
- 成長したいという動機形成
- 「経験学習(注2)」と「系統学習(注3)」
- 良質なフィードバック
- 自身での深い気づき/内省
- 知りたい、深めたい、やってみたいという好奇心
(注2:実際にやってみて学ぶこと)
(注3:書籍や講義などで整理された内容をインプットして学ぶこと)
キャリア形成に必要なこと
- キャリアは描くもの。
- 未来はリアルに描けば描くほど実現の確度が増す。
(キャリアとライフスタイルは表裏一体でもあるので、「どんなキャリア」、が浮かばなかったら「どんな大人」「どんな暮らし方」「どんな人生観」の観点からでも良いからリアルに考えてみる。) - キャリアや評価を形づくるのは、どこまでも他人の応援と評価が欠かせない。
(臨むキャリアを実現するには、周囲からのバックアップや耳の痛いフィードバック、それを受け止めて真摯に取り組むことが大切。『出処進退』の考え方。) - 人から応援されるには「信用」「信頼」「期待」といったクレジットが必要。
- その道で活躍したければ「量」は避けて通れない。
(頑張るその姿を人は見ており、クレジットが生まれる。) - 「量」を内省することで、再現性のある「質」に転換することができる。
- 人から薦められたら率先して実行してみる。
(やってみないと心が躍るかはわからない。その世界に入ってみないとなりたい理想も見つからない。) - 下記3つのステップでオーナーシップを発揮するのが重要。
→「自分が何に心が躍るか、何を理想と感じるかを見つめること」
→「心が躍ることをいつまでに実現するか、ざっくりとでも目標を立てること」
→「それを実現する為に周囲に理解・応援される自分でいる様に考えて動くこと」
少々分かりづらい部分があるのでいくつか補足できればと思います。
まず『出処進退』とはなんでしょうか。一般的な定義は「職にとどまることと辞職すること。身の振り方。」ですが、キャリア形成における出処進退の考え方は異なります。私の好きな歴史関連の書籍で紹介されていたもので、私がとても共感した考えです。
私なりの解釈も込めてお伝えすると「一人でとどまっていたり、何かを辞めるなどのネガティブなことは自分一人で決められること。一方で出世したり、新しいチャレンジができるなどのポジティブなことは、どこまでいっても、他人の承認と応援があって成立する。その為、周囲に自分のことを知ってもらった上で、応援される様に生きることが自分の未来を作る上で大切」ということです。
この『出処進退』の考えが示す、出世や評価のメカニズムを理解してから、自分の将来に対して霧が晴れた様に感じたことを今でも強く覚えています。
応援されるための「信用・信頼・期待」とはどのようなものでしょうか。これら3つはそれぞれ単独で成り立つとは考えていません。着実に積み重ねた実績や成長から生まれる「信用」、約束を必ず守ったり裏表ない誠実さからくる「信頼」、そして明るさや粘り強さ、困難を乗り越えてきた姿などから作られる「期待」。これら3つが折り重なって初めて、「あの人を応援しよう」という気持ちになると考えています。
昨今、新卒採用の場面で「入社したら裁量がほしい、と言う候補者が多い」との声を業界内の人事関係者から耳にします。このコミュニケーションは上記の考えに反しているし、思慮が足りないと感じます。
何故なら「裁量」とは権限の話であり、ある種の「責任」を果たすために付与されるものだからです。果たすべき責任の話を抜きに「権限をください」と言われても何の責任を果たすのかわからないので、適切な権限を渡しようがないのです。
また、上で述べた様に、人から応援されたり承認されたりするには「信用・信頼・期待」が必要です。それら3要素を信じるだけの蓋然性(確からしさ)が持てていないのに「裁量ください」というのは、スポーツなどにおいて「これまでの実績や追うべき責任も明らかにしていないけれど、入ったらスタメンやキャプテンにしてください」と言うのと同じことだと思うのです。その意気込みは買うけれど、あまりに自己中心的です。周囲に応援されにくいので成長は遅く、小さくなります。共にキャリアを開発したり、共に事業をつくったりする仲間としての会話は成立しづらいと感じます。
この3要素は人によって重み付けが異なるので、相手のことを理解しながら埋めていく必要があります。
以上のように、キャリア形成を実現する為には周囲の様々な要素が絡んできます。そのため孤独に考えすぎずに、周囲の協力と共に歩むのがキャリア形成や成長において大切なことだと思います。
「人的資本」とは
ここまで成長について述べましたが、それでは人の何を成長させるのでしょうか。
それこそが、冒頭述べた「人的資本」です。
人的資本モデルは米国のネブラスカ大学名誉教授であるフレッド・ルーサンス氏が提唱する下図のモデルが非常にわかりやすいため、社内でも活用しています。
このモデルでは人的資本を3つに分けて整理しています。
1つめはスキルや知識など学んで得られる「人的資本」。2つめは協力したり相談できる人との繋がりである「社会関係資本」。3つめは前向きにものごとに立ち向かえる心の状態である「心理的資本」です。
実際の例にあてはめてみます。
ポジションに求められる知識やスキル(=人的資本)がなければ活躍できません。知識やスキルを満たしていても、周囲の協力(=社会関係資本)を得られなければ高いパフォーマンスは出せません。知識もスキルも協力できる人のネットワークも持っていても、心理的資本が損なわれるとどうでしょうか。たとえば、落ち込んでいたり自信がなかったりして「自分には無理だ…」と思っていると、持っている能力を活かすことはできません。
企業が人的資本を最大化していく取り組みでは、上記3つの要素を個別具体的に伸ばすことが重要になります。そのなかでも3つめの心理的資本は、さらに4つの要素に分けられます(上図)。これら4つも、それぞれを個別に把握して伸ばしていく必要があります。
心理的資本4要素の中でも、エフィカシー(Efficasy)は残りの3要素にも強く影響します。エフィカシーとは、「自分ならやれる」「自分にもできそうだ」のように、ある状況や課題に対する自分への自信を持つ力のことです。この部分を優先して伸ばしていくことで、しなやかでたくましい人になれるでしょう。
エフィカシーは成功体験の積み重ねと、周囲からのポジティブな働きかけなどによって構築されていくと言われています。たとえば、「よかったね!」「目標に行かず残念だったけど、惜しかったし〇〇のプロセスはめちゃくちゃ良かったよ!」のような声掛けがそれにあたります。
私はこのエフィカシーを、自己のメタ知覚や自己認識から構成されるものと考えています。すなわち「ものごとやそこに関わる自分を俯瞰的・構造的に理解すること」「最終的に自分で自分を『きっと大丈夫』と思いきれること」だと思っています。
これらを養っていくために大事なことは以下2つです。
- 状況を客観的に理解する訓練やサポートがあること
- ものごとを肯定的に意味付ける訓練やサポートがあること
つまり自身の努力もさることながら、周囲のフィードバックが肝なのです。このプロセスでは、フィードバックをする力と受け取る力、両方がかみあって成立します。
成長においては多くのケースで良質なフィードバックがとても大事です。よく言われるように「言ってもらえるうちが華」ですので、言ってくれる相手にとって、自分は可愛げのある存在であり続けられる様に努力が必要だと思います。
(この話に年齢は関係なく、どれほど年齢を重ねてもフィードバックやアドバイスは貰えた方が断然良いのです。何歳になっても「あの人は素直な人だなあ」と思われる自分でいることは、リスキリングや彩りある人生を過ごす上でもこの上なく大切な要素だと思っています。)
以上の様に、キャリアを形成していく為には周囲からの応援や自身の成長が必要です。また成長するためには人的資本・社会関係資本・心理的資本それぞれを見つめて、自身が伸ばすべきところを個別に伸ばしていくのが重要です。
自己成長の取り組みは自分一人で完結するものではありません。組織に所属している場合は、自身と組織の両面からアプローチすることでより着実に成長が実現できます。
ここまで、当社の従業員の成長に対する基本的な考え方を紹介しました。このように、考えや取り組みを社内外にも発信しながらアップデートしていこうというのが「人的資本経営」と呼ばれ、今世界的に進んでいる経営の在り方になっています。
世界的な動きとしての「人的資本経営」
人的資本経営は、「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことにより、中長期的な企業価値の向上につなげる経営の在り方」として国内においても浸透が加速度を増しています。
世界的に見れば18世紀に著されたアダム・スミスの「国富論」に起源を発し、20世紀中頃にゲイリー・ベッカー教授らによって「教育投資が人的資本の価値を向上させる」という人的資本に関する考えが定義・研究されました。
それから約50年以上の時を経て欧州や米国などの先進国を中心に人的資本が重視されるようになってきたのは、変化の激しい現代において「市場価値の構成要素として、人に代表される様な無形資産の影響が非常に大きい」という認識が体感をもって広まってきたからではないでしょうか。
この人的資本の考え方は投資に対して、適切にリターンを観測し続けるという経営視点の合理性を含んでいます。
同時に「人を資本とみなし、投資すれば必ず見返りがある」とする思想は、人間への可能性や愛にあふれた考え方であると私は感じており、すべての人の未来に希望を宿すものだと考えています。
今回はキャリアと人的資本について紹介しました。次回はCARTA HOLDINGSの人的資本経営に対する取り組みと課題についてお伝えします。(以下、後編につづく)
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