事業の進化
私たちのメディアが、「犬種特化型」である理由。ペットとオーナー、どちらの幸せも追求したい
病気や寿命――読者に知ってもらうため、重いテーマにも果敢に切り込む
今回インタビューしたのはdot LIFE創業者の湯川健太、メディア編集長の湯川智加、メディア事業部責任者の植松秀斗。犬種特化型メディアにこだわる理由、読者と交流をして生まれた想いなど、聴きました。
湯川 健太
Kenta Yugawa
rakanu株式会社
代表取締役社長
湯川 智加
Chika Yugawa
rakanu株式会社
メディア事業部 編集長
植松 秀斗
Hideto Uematsu
rakanu株式会社
メディア事業部 事業部長
―まずは簡単な経歴とdot LIFEでの役職や業務内容を教えてください。
湯川健太(以下、湯川):rakanuの創業者であり、現在代表取締役を務めています。事業コンサルティングやマーケティング戦略など、ずっとデジタルマーケティング業に携わっていましたが、2016年にdot LIFE(rakanuのメディアブランド)をスタートしました。3年後の2019年にVOYAGE GROUP(現:CARTA HD)の子会社となり、統合に伴いCARTA HD傘下のグループ会社となりました。
湯川智加(以下、智加):私はメディア編集長を務めています。それまではフリーランスライターとしてさまざまなジャンルの記事執筆をしていましたが、当時から、現在当社で扱っているフレブル専門誌「BUHI」の編集にも携わっていました。その後フレンチブルドッグのWEBメディアをつくりたいと、夫の健太とFRENCH BULLDOG LIFEを立ち上げて今に至ります。
植松秀斗(以下、植松):私は、メディアのマネタイズを担うメディア事業部で責任者を務めています。主に法人向けの営業を担当していて、ペットライフにマッチした商品とのタイアップ記事企画を、企業に提案することがメインです。2020年に新卒でCARTA HDに入社以降、ずっとrakanuに在籍しています。
―犬種特化型ブランド「dot LIFE」を立ち上げた理由は何だったのでしょうか?
湯川:もともと私たち自身がフレンチブルドッグ(フレブル)を飼っていたことが始まりです。フレブルって世界的に最もデリケートとされている犬種なんです。病気にかかりやすいし、ちょっとしたことで弱ってしまうという悩みが絶えない。そんな時フレブルオーナーがどうするかというと、調べますよね。でも世の中に出ているのは一般的な犬の情報がほとんどで、愛犬には当てはまらないというケースは少なくない。情報のアンマッチングが起きてしまっていたんですね。フレブルに特化して情報を提供するメディアならオーナーさんに喜んでもらえるのでは?と考え、WEBメディア「FRENCH BULLDOG LIFE」を立ち上げることにしました。
―そこからほかの犬種にも拡大していったのですね。
湯川:はい。スタートしたら、ありがたいことにメディアを見てくれた読者さんからの反響が結構大きくて、また広告主さんからの評価も高く「ほかの犬種のメディアはないの?」というお声があったんです。FRENCH BULLDOG LIFEを立ち上げて1年後に横展開を始め、現在は柴犬、レトリーバー、ダックスフンドに特化したメディアも運営しています。
サービス内容もメディア事業から少しずつ拡大させています。これらのメディアには、一般的なWEBメディアのようなバナー広告を入れていないんです。その理由は、かなりニッチな領域のメディアになるからあまり広告収入が見込めず、それなら読者さんにとって質の高い情報を届けられるメディアにしたい、という立ち上げ当初の想いがあったから。メディア事業では植松が担当するタイアップ記事でマネタイズをしていますが、ほかの分野におけるペットオーナーさんからのニーズもとらえ、犬向けのフードやサプリメント、アパレルの販売も始めました。
―おっしゃる通り、犬種特化型メディアはニッチな分野だと思いますが、運営する意義や目的をどう考えていますか?
湯川:ペットオーナーさんが愛犬に関する理解度や知識を向上させることが、このメディアの存在意義だと考えています。犬と暮らしていく上で理想やいろいろな不安をお持ちの中、私たちのメディアが選択肢や事例を提示することで、解決の糸口やヒントを見つけてもらえたらうれしいです。
ただ、知識をつけるためにメディアを見ようという読者さんは少ないです。基本的には面白くて楽しくてつい読みたくなるコンテンツの中に、読み応えがある記事や知識を深められる記事を交えて、自然と学べる構造づくりをしています。
実際にペットオーナーさん主催のオフ会に顔を出させてもらってお会いした時、「参考になったよ」とか「あの記事読んで助かりました」なんて声もたくさんいただきましたね。
―そのWEBメディアやコンテンツの中で、特に印象に残っている記事はありますか?
智加:隙間時間で読めるライトな記事の方がPVは高いんですが、個人的に思い入れがあるのが、少しハードな題材であるフレブルの寿命について切り込んだ記事(*)。近親交配が引き起こす突然死や血筋をたどる上で重要な血統書の読み方について細かく書かせてもらいました。ここまで踏み込んだ内容のペットメディアさんはないという自負がありましたし、何よりSNSで拡散されて多くの方にその実情を知ってもらえたのは、とても良かったと思います。
またフレブルの特長として、脳腫瘍を患いやすいということがあります。そこで脳腫瘍を発症したフレブルオーナーさんに取材をした2万字の闘病記を載せたんです。少しヘビーな内容ではありましたが、こちらも大きな反響があって、「愛犬に長生きしてほしい」というオーナーさんたちの気持ちを改めて痛感。少しでも寿命を延ばすお手伝いをするために、調査や取材を通して役立つ情報を提供しなければならないと使命感を持ちました。
(*)FRENCH BULLDOG LIFE記事
【大切なこと】近年若くして旅立つフレブルが増えている現実と向き合う〜交配や体格について
【全記録】9歳で脳腫瘍発覚から「4年7ヶ月間」生存したフレンチブルドッグ・桃太郎
【専門医に教わる】フレンチブルドッグと脳腫瘍の関係―Kyoto AR動物高度医療センター神志那弘明先生
―2022年11月に開催された「French Bulldog LIVE 2022-秋-(フレブルLIVE)」についても教えてください。
植松:フレブルオーナーのみなさんを対象に開催したリアルイベントで、当日は約4000名に参加していただきました。オーナーさんが愛犬と楽しむ野外音楽フェス「FES time」、100店舗ほどが並ぶ出展ブース、オーナーさん同士がコミュニケーションを図れる交流企画の3つが、メインのコンテンツでした。結果から話すと、参加後のアンケートで参加者・出展者ともに5段階中4.2の評価で、大成功に幕を閉じました。ただプロジェクトが始動した6月から開催まで、大変だったのも事実です(笑)。
湯川:以前からリアルイベントのご要望はいただいていたのですが、社員数7人だった当時はリソースが足らず、実行できずにいました。それでも植松が「やりたい!」と言うので、開催に向けて踏み切ったんです。
参照:【フレブルライブ】「French Bulldog LIVE⚡️2022 -秋-」After Movie
―そこまで開催したかった理由は何だったのでしょうか?
植松:まず読者さんとリアルなコミュニケーションをとりたかったというのがあります。また私たちがイベントに出展してもらう企業ともリアルに接点を持つことを視野に入れていました。そしてメディア運営だけでなく、犬種に特化した大きなイベントを成功させたという実績をdot LIFEにつくりたかったんです。
湯川:犬のオーナーが集うイベントは、小規模であれば各地で開催されています。でもやるからには、新しい形のドッグイベントをつくりたかった。誰も実行・実現していないことをやるというコンセプトは、メディアづくりにおいても重視していることですので、イベント開催にも同様のゴールを定めました。特にほかのイベントと差別化を図ったのが、参加するオーナー側も存分に楽しめる点。ドッグイベント×音楽フェスのようなスタイルをイメージして、まずは野外音楽フェスの運営会社に相談することから始めました。だからすごく大変だったんですけど(笑)。
―特に印象に残っていることは何ですか?
植松:同じく大変だった話になってしまいますが、オリジナリティあるコンテンツにこだわった分、開催直前まで内容も右往左往したんです。その都度100の出展者に変更を告知したり、アーティストや企業の動線を練り直したりしました。当日も数百人単位のスタッフの動きを把握してフォローする必要がありました。規模が大きすぎて、各所との情報共有や当日のオペレーションはかなり大変でした。
でも後日読んだアンケートでうれしいことが書かれていて。イベント参加のきっかけを聞く問いには「ほかのフレブルオーナーさんと話したい」という、一般的な犬のオフ会の延長線上で参加した方が多い印象でした。でも、イベントで満足した点を聞く問いでは、アーティストのステージパフォーマンスや私たちが企画した交流企画、イベントの規模感に驚きと喜びを表す声がとても多かったんです。いい意味で参加者の期待を裏切れたと思いますし、リアルイベントの魅力を私自身も実感しました。また次も開催する予定です。
―智加さんはいかがですか?
智加:植松の言う通り、コンテンツづくりは苦労した点です。会場自体が野外フェスで使われる大きな場所だったので、そのスケールに負けないイベントをつくりたかったですし、何より参加者さんを最後まで飽きさせない工夫をする必要がありました。ステージコンテンツについては、参加者さんの年齢層に合っていて、さらにフレブルや犬にゆかりのあるアーティストさんをアサインさせて頂きました。とはいえステージコンテンツに興味を持たない方もいると想定し、ほかのエリアも充実させたくて、交流ブースでは時間単位で子犬や病気の犬も集まれるようにしました。ただ私たちはフレブルオーナーでもありますので、自分たちのワガママを叶えることが、参加者さんの満足につながるという気持ちで、コンテンツづくりに臨んでいました。
ー参加者さんと直接コミュニケーションを取られたりするんですか?
智加:もちろんです。大勢の参加者さんの中には、まだ会社を立ち上げて間もない頃から応援してくださっているフレブルオーナーさんもいらしていて。6年前にdot LIFEが小さなブースを借りて出展したイベントから何度か顔を出してくれている方で、当時を思い起こしながら「大きくなったな」と言ってくださったんです。「どうしてもこれだけは伝えたかった」と車椅子で来てくださって。リアルでなければ絶対に味わえない喜びを心から感じた瞬間です。通常業務と並行して実施したイベントは準備から当日まで本当に大変でしたが、それ以上にやってよかったと思えるものになりました。
―ありがとうございます。今後は、ペットマーケティング事業を軸にどのように事業展開し、会社を進化させていきたいと考えていますか?
湯川:オーナーさんとペットのどちらも、より多くの幸せに気づけるような新しい価値や体験を提供していきたいです。楽しそうにしている犬を見るとオーナーは幸せだと思うのですが、その逆もあるんです。オーナーが楽しそうにしていたら、犬も幸せを感じている。ペットビジネスの多くが動物だけにフォーカスしがちなんですが、オーナー側にフォーカスをすることも重要なんですよね。だから今後も、「あんなに笑っているオーナー見たことがない」と犬たちが感じられる面白いイベントを開催していきたいですし、どんどんアウトプットしていくつもりです。うちのメンバーみんな、誰かがすでにやっていることはやりたくないという考えの持ち主ばかりなので、犬にとってもオーナーにとっても新しい価値を提供できる会社であり続けたいですね。