事業の進化
ゼロからメンズスキンケアブランドを設立。CCIが自社D2C事業に挑戦した背景を紐解く
戦略的なこだわりを持って取り組んだプロダクト開発――予想以上の反響を呼ぶ
加藤 潤一
Junichi Kato
株式会社CARTA COMMUNICATIONS(CCI)
西 奈津紀
Natsuki Nishi
株式会社CARTA COMMUNICATIONS(CCI)
――まず自社でD2Cブランドを立ち上げることになったきっかけを教えてください。
加藤潤一(以下、加藤):私たちの部署では、企業のEC販売戦略をワンストップで支援する「Commerce Container(コマースコンテナ)」というサービスを運営しています。その中で、クライアントが行うサプライチェーンの構築と運用に対する私たちの理解が乏しい点が課題でした。であれば実際に自分たちで商品の企画から販売までのプロセスを体験することで販売戦略のノウハウを蓄積し、Commerce Containerのサービス向上に繋げようと考えたのが始まりです。
2020年の5月頃、当時の上長からの発案でプロジェクトが立ち上がり、部門内でプロジェクトメンバーを募っていたので、自分から手を挙げて参加することにしました。CCIは、インターネット広告業界を引っ張る立場でありながら、常に新たな領域にチャレンジする会社。その一員として、今回のような新しい取り組みには積極的に挑戦したいと思っての選択です。10名のプロジェクトメンバーと共に、商品内容の企画からスタートしました。
――プロダクトをメンズ用スキンケアに決めるまでの経緯と苦労した点を教えてください。
加藤:インターネット上でのサービスを提供してきた私たちにとって、有形商品の開発は未知。素人として苦労しながらも、データやトレンドをリサーチし、商品カテゴリを決めていきました。
今回のD2Cブランド立ち上げにおいて重要なのは、Commerce Containerのサービス強化のためにノウハウや知見を貯めることであって、この事業で利益を生み出すことではありません。しかしある程度は販売数を見込めなければ意味を成さないので、ニッチ市場は避け、かつ参入障壁の低い分野の中で絞っていくことにしました。バスソルトやジェルネイルなどの王道なアイデアが挙がる中で出た、「メンズのスキンケア用品の需要が高まっている」という話題が興味を引きました。リモートワークにより、オンライン会議で自分の顔を見る機会が増えた男性たちが、スキンケアに注力するようになっていたんです。メンズ用の化粧品は、まだ競争も激化していないため参入がしやすいこともわかりました。そこで、メンズに特化したスキンケア用品を開発することになりました。
「天然由来成分を配合し、品質のいい商品を作りたい」という私たちの要望を最大限叶えてくれるOEMの会社に製造をお願いし、2021年4月に販売を開始。個人情報の取り扱いや製造物の責任の所在など、我々の既存ビジネスにはない懸念点が生じることもあったため、法務や経理の部署にも知恵を借り、連携しながらプロジェクトを進めていきました。
――西さんはいつ頃、どのような形で、プロジェクトに参画したのでしょうか?
西奈津紀(以下、西):もともとCommerce Containerのコマース領域のコンサルティングに携わっていたので、HAUTが販売され、ECモールへの出店を企画しはじめた2021年の5月ごろから自然と関わるようになりました。D2Cブランドは実施事項が多岐に渡りますし、物流を考えるのは難しいこと。このプロジェクトを推進する過程で、至る所でジャッジが必要となります。そのほとんどを加藤さんが担っていたので、私が入ることで少しでも加藤さんの負荷を軽減することを心がけてきました。途中から参加したためプロジェクトの全体像を掴むのに時間はかかりましたが、昨年末ごろからオフライン店舗での出店や新製品に関する商談の場にも入り、正式にメンバーとして動き始めたという実感があります。
加藤:ECを運用する上で、コマース領域はプロジェクトメンバー一丸となり、力を入れて取り組んでいこうという雰囲気がありました。ですので、最初は知見のある西さんに協力していただくことになり、次第に巻き込まれるような形でメンバーになっていきましたね(笑)
――2021年度の「グッドデザイン賞」も受賞されました。プロダクトデザインの面でこだわったポイントは何でしょうか?
加藤:当初から、ビジュアルデザインは他のメンズスキンケア用品と差別化する上で大きな要素の一つだと考えていたため、外部デザイナーさんにも入っていただきながら制作を進めました。ミニマルなデザインを採用するハイブランドが多い中で、シンプルでありながらもタイポグラフィを使ったインパクトのあるパッケージとしたことで、視覚的にも印象に残るプロダクトになったと思います。商品本体を梱包する箱もアートブックのような造りにし、HAUTという商品そのものがライフスタイルに溶け込むように工夫をしました。
もちろんビジュアルが確立されるまでも紆余曲折はありました。サステナブルの観点から紙を使用したパッケージで作りたかったのですが、中身が劣化する可能性があったので実現できなかったり、段ボールは使わずに梱包箱のまま配送する案も、配送途中で商品が飛び出してしまうから断念したり。さまざまな経緯を経て、今の形となりました。
西:グッドデザイン賞を獲れたことはすごく大きかったと思います。もともとデザイン面でバイヤーさんやインフルエンサーさんが共感してくださっていたことで、一部では注目を集めていましたが、グッドデザイン賞の受賞を機に、より認知度が上がり、HAUTの裾野を広げるきっかけになりました。
――徐々にHAUTの認知拡大を感じることができたのですね。
西:雑誌に取り上げられることが増え、ポップアップ店舗への出店などオフラインの販売も実現しました。D2Cビジネスの知見を得るという当初の目的を超え、予想以上に露出できた。自己満足ではなく、外部からの評価もしっかりと得られているんだと感じています。
加藤:マーケティング戦略としてソーシャル上での波及を狙い、最初からCX(顧客体験価値)は意識していました。HAUTの世界観を伝えられるよう100ページくらいのブランドブックを商品に同封したり、初回販売数を1000個に設定していたため梱包箱の裏に手書きでシリアルナンバーを書き限定感を演出したり。他の商品を購入する際には感じることのできない体験を届けたいと考えていました。そうした始まりから少しずつ知名度を上げていくことができたのだと思います。
ECサイトのレビューコメントやInstagramのコメントやDMを通して、購入者からリアルな声をいただくことも増えました。特に、パッケージ、成分、テクスチャなど、開発プロセスで自分たちがこだわったポイントに対して喜んでいただけるのは嬉しいものです。
また、本プロジェクトは、社内アワードでのグランプリ受賞という形でも評価されました。経験も知識もゼロの状態からものづくりに挑戦し成し遂げられた。グッドデザイン賞受賞や予想を上回る販売数も、高評を後押ししたと思います。電通グループ内の好事例としてウェビナーにも登壇し、多方面から評価されたことを実感しました。
――実際にD2Cブランドを運用してみて、Commerce Containerの効果的な活用法や戦略、一方で課題は見えてきましたか?
加藤:新規プロダクトか既存商品か、どのフェーズで使用するかによって異なるとは思いますが、多岐に渡る戦略の一つ一つを細分化して丁寧に販促をしていく。それは基本としてやるべきことだと再認識できました。ソーシャルコマースでいえば、プロモーションの見せ方やどういったインフルエンサーの方を採用するかも重要ですね。オフラインでの販売も経験しましたが、出店するお店によって客層や販売方法も変わるので、プロダクトのブランディングやターゲット層にマッチしたショップを選ぶ必要がある。そのあたりは実際にHAUTを販売して理解が深まった点と言えます。
西:課題として見えてきたことは、ギフト市場の強化です。ギフトEC市場は、加藤にとっても私にとっても、成長を続けていることを認識はしていたものの、実践はできていない領域でした。
加藤:倉庫側でもメーカー側でもギフト用のラッピングは難しいにも関わらず、プレゼントとして贈る場合はどこかのタイミングでギフト用の梱包をする必要があります。またECモールだとラッピング用品の種類が豊富でないのも難点。ECでギフト対応するのは、支払いや配送方法など配慮する項目が多くあり、システム的な改修も必要となります。しかし新たな領域への参入は、そうした細かい作業を積み重ねていくことが重要なのだと感じました。
西:ギフトも含めて、対応領域を拡大し、サービスをグレードアップしていくことが目下の課題ですね。
――最後に、今後のHAUTの展開をお聞かせください。またCommerce Containerの運用者としての展望もお願いします。
加藤:まずHAUTは、新製品として洗顔料開発を企画中で、スキンケア商品とのセット販売も予定しています。回遊率の向上や複数SKUの販売戦略などの知見を溜めていきます。また、自社でプロダクトを持っていると、アップデートの早いECモールやプラットフォームの新機能もいち早くキャッチアップできるため、本業への還元にもつながると考えています。
西:HAUTの販売を通じてD2Cビジネスのノウハウを獲得すること。それが最優先事項という中で、1商品だけだと限界がありますよね。回遊率の向上や関連商品の導線設計なども、複数商品ある方が考えやすいですし、キャッチしたユーザーのリアルな声を新製品の開発に活かしたときの効果も計れる。ソーシャルを活用したプロモーションやマーケティングのトライアルアカウントとしても使えますね。
クライアントの視点を持ち、ユーザー理解を深めるためにも、D2Cブランドは持続させていく方がいいと思います。組織としても、畑違いの分野にチャレンジする私たちを応援してくれています。今は、次なるステップである新商品の販売に向けて試作などを重ね、バイヤーさんの意見も交えながらプロダクトの世界観と合うセレクトショップをリサーチしている最中です。
加藤:バレンタインデー効果で女性の購入数が増えたこともあり、やはりプレゼントとしての需要があるとわかったため、課題に挙げたギフトの販売ノウハウを習得していくつもりです。今後もクライアントに伴走・支援しながら、高い付加価値を提供し、共に成長していけるサービスを構築していきたいですね。
HAUT:https://hautmens.com/
Commerce Container:https://www.commerce-container.cci.co.jp/