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人的資本の進化

打席は自分でつくれる。

データマーケティングの旗手 菅原昂太が語る成長機会の増やし方

2014年に新卒で株式会社電通(以下、電通)に入社し、現在CARTAのグループ3社で役員を務める菅原昂太。これまでデータマーケティングを中心に新たなアプローチを開拓し実践してきました。その歩みとモチベーションの源泉について問われると、「打席数」がチャンスを拡げ、クライアントに起こる「変化量」が彼を駆り立てると語ります。壁を乗り越えようと努力する若きビジネスパーソンに贈るキャリア論です。

菅原 昂太

Sugawara Kota

株式会社CARTA ZERO
上級執行役員

2014年電通に入社。デジタルを軸にオフラインも網羅した立体的な戦略策定からエグゼキューションの実行を経験。2026年より株式会社D2C執行役員、株式会社CARTA ZERO上級執行役員および株式会社テレシー取締役。

広告効果は過去最高だったのに。若手時代の敗北が教えてくれたこと

― 菅原さんはデータマーケティングのスペシャリストですが、その専門性はどのように磨かれたのですか。

2014年に新卒で電通に入社し、デジタル領域のアカウントプランニング部門に配属されたのがキャリアのスタートです。当時はダイレクトマーケティングの広告運用が中心でしたが、私が常に意識していたのは、新しい手法やテクノロジーが登場した際に「これを担当クライアントの課題解決にどう転用できるか」を徹底的に考え抜くことでした。

例えば、電通がデータクリーンルーム(*1)の活用を本格化させた際も、「これは絶対に自分の案件で活用できる」と直感し、真っ先に導入できないか専門部署と議論を重ねました。テレビとデジタルを掛け合わせて統合的な成果を出すためのプランニングにもいち早く取り組みました。現場で直面する「リアルな課題」と「最先端の技術」をいかに繋ぎ込むか。その試行錯誤の連続が、今の自分の専門性や思考の土台になっていると思います。

― これまでのキャリアで印象に残っていることは。

大きな転機となったのは、CPA(顧客獲得単価)やCPO(注文獲得単価)といった広告効果の指標は過去最高であったのにも関わらず、案件を失注してしまった若手時代の苦い経験です。当時の私は、いわゆる「ダイレクトマーケティングのセオリー」に固執し、クライアントが真に抱えている事業上の課題に寄り添いきれていませんでした。

「なぜ生活者はこの商品を選んでくれるのか?」という根源的な問いや、クライアントとの関係性を構築するためのコミュニケーションが決定的に不足していたのです。広告運用やデータ活用の知見という必要条件を満たしていても、事業成長という十分条件を見失っていたのだと思います。

その後、あるクライアント企業に半常駐する機会を得て、新規サービスの立ち上げに深く関わりました。そこでは一つのサービスを世に出すために多くの部署が関わり、複雑な社内調整が行われるのを目の当たりにしました。事業会社が日々直面している生々しい課題を肌で感じ、代理店として外側から得ていた情報が氷山の一角に過ぎなかったと痛感したのです。

それ以来、自分のデータやデジタルという専門領域に閉じるのではなく、まずはクライアントの事業そのものを体系的に理解し、マーケティング視点でのゴールを設定し、自らの武器であるデータをどう活用できるか?というスタイルへと大きく変化しました。

*1 データクリーンルーム=個人を特定できない安全な環境でデータを統合・分析できる仕組み

クライアントの「変化量」を最大化する共創アプローチへ

― そうした挫折と気づきを経て、菅原さんが現在仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか。

自分や自社が介在することで生まれる「変化量」を最大化し、追求することです。わかりやすいのは売上向上やCPA改善といった定量的な成果ですが、その結果を出すプロセスにおいて「社内の意思決定やプロセスが変わった」「商品の新たな強みや事業の視界が開けた」といった変化創出に重きを置いています。

そのために重要なのは、自分たちが「できること(≒手段)」に寄りすぎないことです。代理店は得てして自社が売りたいソリューションから発想しがちですが、それだと未来志向になりません。

クライアントの「ありたい理想の姿」を共に構想し、課題を捉えなおす。その上で自分たちの専門性を掛け合わせて、最大の変化量を生み出す方法を編みなおす。クライアントの想像を超える解で共に変化の瞬間を分かち合えた時、私自身もこの上ないやりがいを感じます。

データだけでは人は動かない。組織を牽引する「ビジョン」と「熱量」

― 挫折や常駐経験から学び、現在ではクライアントの心を動かすような「変化量」を追求する。菅原さんにはクールでロジカルな印象を持っていたのですが、お話を伺っているとエモーショナルな面を大切にしている方だと感じます。

初対面では冷徹でロジカルな人間だという印象を持たれがちです。ましてや現在の立場になり、現場メンバーとの距離感には悩みますね(笑)。一方でお付き合いが深まるにつれて「根はウェットで、感情や対話を重視するタイプ」に印象が変わると、周囲から言われます。自己開示の難しさと大事さを日々感じています。

以前、業界の著名な経営者からリーダーシップについて伺う機会があり、感銘を受けました。そこでは「完璧なリーダーを演じるのではなく、自分自身の弱みも含めてさらけ出すこと」「明確なビジョンを掲げること」、そして「それに心から共感してもらうために泥臭く対話を重ねること」の重要性を学びました。

それ以来、ただ正論やデータに基づいたロジックを振りかざすのではなく、自分の想いややりたいことを体系化し、周りに伝わる形で発信し、理解や共感を得られるよう努力をしています。データやテクノロジーはあくまで事実を示す手段であり、最終的に組織を動かし、事業を力強く推進していくのは、やはり人間の「熱量」や共感を生むビジョンだと考えています。

「打率」より「打席数」。リスクを恐れず手を挙げ、ひねり出した解決策で周囲を巻き込む。

― 菅原さんが2014年新卒ということもあり「どうやったら若いうちから菅原さんのようなキャリアを歩めるか」関心を寄せる若手メンバーも多いと思います。もし聞かれたら、なんと答えますか。

周囲の人に恵まれたことにつきます。
でも、これだと答えになりませんよね(笑)。

一つ言えるのは私自身は決して「打率」が高い優秀タイプではありません。むしろ、これまで数え切れないほどの失敗を経験してきました。それでも今のポジションを任せていただけているのは、「打席に立つ回数」が人よりも多かったからだと思います。

― 菅原さんの言う「打席に立つ」とは、具体的にどのような行動を指すのですか。

過去に「ストレッチ」というテーマで自分の仕事を発信する機会がありました。私が考える「ストレッチ」とは、現状とありたい姿のギャップを認識すること。そのギャップを埋めようとする思考や行為の積み重ねだと体系付けています。その前提において、「打席に立つ」というのは単に与えられた仕事をこなす機会ではなく、少し背伸びをしてギャップを埋めようとする「自発的」なアクションを指しています。

例えば、過去にはコンペで5連敗するという、非常に悔しい経験をしました。心が折れそう、というと大げさかもしれませんが「自分には向いていないのでは」という考えも頭をよぎりました。しかし、そこで「今回は運が悪かった」「自分の責任ではないから仕方がない」と諦めるのではなく、なぜ負けたのか、何が足りなかったのかをとことん言語化し、徹底的に内省しました。

そして自分なりの新しい解決策を提示し、関係部署を巻き込み、組織を跨いだ改善アクションにつなげました。失敗から学び、次の一手を社内に発信するのも、重要な「打席」の一つです。

― 打席は自分で生み出し、増やせるということですね。打席数が増えると、キャリアにどう影響しますか。

打席に立ち続けることで、自分のことを見てくれている人が社内に確実に増えます。困難な課題に逃げずに立ち向かい続ける姿を見せていれば、いざ本当に高い壁にぶつかり、自分一人の力や知識では解決できない状況に陥った時、周囲の方々が「あいつが本気で頑張っているなら助けてやろう」「新しいチャンスを与えてみよう」と自然に手を差し伸べてくれるようになります。

私自身、これまで多くの貴重な機会をいただけたのは、決して自分一人の能力や努力によるものだけではありません。周りの方々に恵まれ、助けてもらいやすい状況が「自ら打席に立ち続けること」で結果として作れたのだと思います。

クライアントに圧倒的な変化量を提供し続けるためにも、誰よりも多く打席に立ち、失敗から学び続ける必要があるのです。

データマーケティングの新たな解を作りたい

― 今後の挑戦についてお聞かせください。

大前提として、広告代理店というのは本質的に表舞台に立つ存在ではなく、「黒子」であり、主役は常にクライアントの事業そのものです。しかし、だからこそクライアントの事業成長を裏から力強く、かつ劇的に支えることができるという大きな誇りを持っています。

その前提に立った上で、私が今最もワクワクし、思考を巡らせているのは、CARTAとしてどのように広告主からの存在感を高め、代替不可能なパートナーとして選ばれ続けるかということです。

今回CARTA HOLDINGSとD2Cという、全く異なる知見や技術力、カルチャーを持つ組織が一つに融合しました。この掛け算によるシナジーに加え、データマーケティングにおけるCARTAとしての強みを再定義し、新しい解を創発しようとしています。

データの力を最大限に活用した新しいプロダクトやマーケティングアプローチのプロトタイプを創り、クライアントやパートナー企業にこれまでにない価値を届けていきたいと考えています。

― 今回伺ったお話は、これからのマーケティング業界を担う次世代の方々にとって非常に示唆に富む内容だと感じました。最後に、若手プロフェッショナルへ向けたメッセージをお願いいたします。

マーケティング業界は非常に変化が激しく、常に学びと自己変革を続けることが求められます。受け身になって既存のセオリーに甘んじるのではなく、自ら「打席」を作り出し、失敗や変化を恐れずに挑戦し続けることが大事ではないでしょうか。

小さなことでも毎日何かしらの「自分なりの解」を出し続けること。その積み重ねがやがて、自社やクライアントの事業を大きく動かし、マーケティングの未来を創っていくと信じています。