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テクノロジーの進化

脳内で、事業の「正解」を描き切る

全領域を踏破した規格外なエンジニアが駆使する「脳内シミュレーション」。その源泉は、執念にも似た圧倒的な探求心。

「存在そのものが反則級」「規格外のエンジニア」。社内でそう評される株式会社テレシーの大竹聡子の原動力は、常軌を逸した「中身を知りたい」という好奇心です。
彼女が開発に携わった「テレシーアナリティクス」は、これまで困難だったテレビCMの効果測定を身近なものに変え、業界に衝撃を与えました。
その圧倒的な成果を生む武器は、コードを書く前に必要なシステムを脳内でシミュレーションし、事業の「正解」を描き切ること。AI時代、技術を手段と割り切る彼女の、「事業をエンジニアリングする」勝ち筋に迫ります。

大竹 聡子

Satoko Otake

株式会社テレシー
データサイエンス部 部長

2003年、アクシブドットコム(現 株式会社CARTA HOLDINGS)に入社。以来、グループ各社にてデータ基盤、マーケティングプラットフォーム、レコメンドエンジンの構築など、事業の中核システム開発に従事。 2021年より株式会社テレシーのデータサイエンティストとして、CM効果分析手法を立案し、特許を取得。現在はデータサイエンス部部長として、技術開発および組織マネジメントを牽引している。

インフラ構築から数理モデルまで。全領域で成果を出す「規格外」のスーパーエンジニア

―これまでの経歴を教えてください。

最初はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。ITバブル到来という時代の追い風もあり、よりスピード感を持って仕様策定から開発まで一貫して携われるWebエンジニアへ転身。その後、2003年にアクシブドットコム(現 株式会社CARTA HOLDINGS)へ入社しました。

当時はまだ組織も小さく、エンジニアの数も足りていませんでした。私はシステム本部に配属されたのですが、「iモードのゲームを作って」「このサービスの基盤も作って」と、領域を超えたオーダーが次々と飛んでくる環境でした。事業を前に進めるために、必要なことは何でもやる。そうやって必死に目の前の課題を打ち返していたら、いつの間にかサーバーの設置や配線といった物理作業(いわゆるサーバー管理者)から、アプリの実装、そしてAIや予測アルゴリズムといった数理モデルの構築まで、システム開発における全領域を経験していました。

意図して「フルスタック」を目指したわけではなく、事業を伸ばすために必要なことに応え続けた結果そうなっただけなんです。RPGで言えば、フィールドに出て目の前の敵と片っ端から戦い続けていたら、いつの間にか「物理攻撃も回復魔法も、全部一人で使えるキャラ」になっていた、という感覚に近いかもしれません。

―テレビCMが「実際の売上や事業にどれだけ貢献したか」をデータで可視化する「テレシーアナリティクス」。この画期的なプロダクトの実現にも、これまでの経験が活きているのでしょうか。

間違いなく活きていますね。

もともとテレビCMにはGRP(延べ視聴率)などの確立された指標がありますが、実際の消費者行動にCMがどれくらい寄与しているかという数値を算出するのは、技術的に非常に困難でした。そこで私たちは、因果推論によって過去のデータから「もしCMを打たなかったらどうなっていたか」を推計する特許技術を開発しました。それを基盤に、100万インプレッションあたりのCM効果の効率性がわかる、テレシー独自の新指標「TCVI(テレビコンバージョンインデックス)」が生まれたのです。

ただ、この高度な処理をシステムとして成立させるには、各領域のブラックボックスをなくし、最初から矛盾のない設計図を描き切る必要があります。

通常、アプリ、データ基盤、数理モデルの構築は専門ごとに分業されますが、私には全領域を踏破し、それぞれの挙動や制約を「肌感覚」で理解してきた経験がありました。だからこそ、途中で破綻させることなく一つのプロダクトとして形にし、CM効果の高解像度な可視化を実現できたのだと思います。

「急いで作って」と言われたら、「急いで考える」だけ。脳内シミュレーションが、圧倒的な「質」と「スピード」を生む理由。

―異なる領域で数々の成果を生み出してこられたわけですが、大竹さんが絶対に譲れない仕事における「流儀」はありますか。

「脳内で8割完成させてから、手を動かす」ことですね。ビジネスサイドから『至急で』と求められた時、私がまず加速させるのは指先ではなく、脳内でのシミュレーションです。
コードを書き始める前に、頭の中でシステムの設計図を徹底的に組み上げます。ひたすら一人で黙々と自問自答を繰り返し、行き詰まったときは少し席を立って一息入れながら、また頭の中で思考を巡らせる。

誰かと言葉を交わしながらだと、どうしてもシステム全体の緻密な整合性がブレてしまう。だからこそ、ノイズを遮断して自分の中に深く潜り込むんです。データの流れ、処理のロジック、例外処理……それらを脳内でシミュレーションし、システム上の矛盾を一つひとつ徹底的に潰していきます。頭の中で完璧な正解を描き切り、「これで絶対に動く」と確信が持てるまでは一切手を動かしません。

長年のエンジニア経験から、システム開発において最もコストがかかるのは「手戻り」だと骨身に染みて知っているからです。見切り発車で作り始めて、後から「あ、この設計だと破綻する」と気づいた時の修正コストは莫大です。

数理モデルも何ヶ月か考え続けて、実装は一瞬で終わらせる。一見遠回りに見えても、結果的にそれが、圧倒的に速くて質の高いものを生み出す「確実な最短ルート」なんです。

―AIの登場で、そのスタイルは変わりましたか。

むしろ、「正解だった」と確信に変わりましたね。

最近、最高スペックのMacを購入して、ローカルLLM(大規模言語モデル)の検証を兼ねてiPhoneアプリを作ってみたんです。私はSwift(プログラミング言語の一種)はあまり書いたことがなかったんですが、設計と仕様をAIに伝えたら、わずか3時間でアプリが完成してしまったんです。

実装はもはやAIがやってくれる。これからのエンジニアに必要なのは、AIに完璧な指示を出すために「何を作るか(What)」を定義する力だと思います。コードを書く前に、脳内で完璧な「仕様とシステム設計」を描き切る思考体力こそが、AI時代における最強の生存戦略になるはずです。

源泉は、ラジオを分解したあの日から続く好奇心

―そこまで考え続けられる、その圧倒的な熱量はどこからくるのでしょうか。

一言で言うと楽しいからですね。
私にとって矛盾をつぶしながらシステム設計を行う過程は、『シムシティ』のようなシミュレーションゲームをやっているのと同じ感覚なんです。
税率や道路網といった「変数」を組み合わせて、仮説を立て、街全体が淀みなく発展する最適解を探していく。システム設計もまさにそれと同じで、変数を組み合わせて、仮説を立てて、システム全体が淀みなく流れる最適解を探す。脳内のシミュレーションで全てのピースがカチッとハマり、矛盾が消えた瞬間「脳汁」が出るような快感があります。だから、何ヶ月か考え続けることも全く苦ではありません。ただただ、パズルを解いている感覚に近いんです。

この「仕組みを知りたい、解き明かしたい」という欲求は、振り返ると子供の頃からあったように思います。
小学生の頃、ラジオから音が出るのが不思議で、その仕組みを知りたくてたまらなかったんです。 親に聞いてもわからないと言うので、「じゃあ自分で見るしかない」と勝手にドライバーで分解して怒られました(笑)。

当時はインターネットもありませんから、答えがすぐに見つからない状況で、自力で探求し続ける習慣がついたのだと思います。

―今もその好奇心は変わりませんか。

まったく変わっていませんね。むしろお金を自由に使える今のほうが強くなっているかもしれません(笑)。自宅で最先端のAIモデルをストレスなく試したくて、超高性能なサーバー環境を自作しました。ローカル環境なので機密情報やセキュリティの制約を一切気にせず、完全自律型のAIエージェント開発など、新しい技術を好き放題に試せますから。
車が好き、映画が好きというのと一緒で、私にとってはそれが「技術」だっただけです。 面白そうな論文やAIモデルが出ると、理由なく試したくなる。純粋に新しいおもちゃの中身がどうなっているのか、気になって仕方がないだけなんです。

技術はただの手段。でもときに世界を変えるゲームチェンジャーになる

―技術を「遊び」として楽しむ一方で、仕事ではあくまで「手段」と捉えているのが印象的です。AI時代、エンジニアの価値はどこにあると思いますか。

「なぜ作るか(Why)」と「何を作るか(What)」を定義することです。

AIは優秀な作業員ですが、指示されればそれがゴミだろうと宝石だろうと、文句を言わずに作ってしまう。だからこそ、人間が「それは作る意味があるのか?」を厳しく問わなければならないのです。

エンジニアに求められるのは、「迎合しない覚悟」です。
ビジネスサイドからの依頼に対しても、AIの出力に対しても、「本当にこれでいいのか?」と問い続けられるか。AIに意思決定の責任は取れません。最後の砦(ラストマン)になるのは自分だという気概を持ってほしいです。

技術そのものは「手段」に過ぎませんが、どう使うか次第で人々の生活を変える「ゲームチェンジャー」になり得ます。私たちはAIを使って、テレビCMの可能性をさらに大きく広げていきたいと思っています。
そのダイナミズムを面白がり、迎合せずに議論できる人と、まだ見ぬ新しい景色を作っていきたいですね。