事業の進化
テレビと広告、次の100年を作りたい
動画広告の仕掛け人は「基本動作」で道を拓く

今回はその高橋に、自身のキャリアについて話を聞きました。見えてきたのは、インタビュー中に口をついて出てくる言葉「基本動作」が道を拓く推進力になったということでした。
*1 運用型広告 = 広告主自身が広告効果の改善まで含めた運用ができる広告。ターゲット・配信面・クリエイティブなどをデータに基づき改善できる。

高橋 佑人
Yuto Takahashi
株式会社CARTA COMMUNICATIONS
ブロードキャスティング・ディビジョン ビデオアンプリファイ局
局長
想定外だったアドテクへの道、3回のプロダクト立ち上げ
これまでのご経歴を教えてください。
学生時代から広告に興味があり、広告業界を志していました。形のないものを自分の力で売る広告営業職で自分の力を試したい、という気持ちもありました。
求人広告代理店を経て、現在のCCIに入社。思い描いた広告業界での仕事が始まった、と思ったのもつかの間、希望していた営業ではなくCCIが開発したアドネットワーク(*2)「ADJUST(アジャスト)」のグロースに関わることになりました。上長から「これからはアドテクノロジー(*3)の時代だ」と背中を押してもらいましたが、正直なところ、その時はよくわかっていませんでした(笑)。
その後、これまでに3つのプロダクト立ち上げに関わりました。立ち上げのプロセスを大まかに言うと「プロダクト開発」「配信先のメディア開拓」「プロダクトセールス」で、このセットを3回やってきた形です。
1つ目は「ADJUST(アジャスト)」、2つ目は「電通PMP(プライベート・マーケット・プレイス *4)」、そして3つ目が今取り組んでいる「PremiumView」です。「PremiumView」はその名の通り、TVer等のプレミアム動画媒体(*5)に広告を配信するサービスです。

*2 アドネットワーク = 様々なwebサイトやアプリに一括して広告を出せるネットワーク。
*3 アドテクノロジー = 広告を自動的かつ最適に配信し人力ではできないことを実現する技術。
*4 プライベート・マーケット・プレイス(PMP) = 広告主のブランド安全性を守ることを主眼においた参加者限定の広告取引市場。限定された広告主とメディアが参加。
*5 プレミアム動画媒体 = 個人投稿ではなく放送局等が制作する信頼度の高い動画を扱う媒体。
放送動画市場への参入、そして専門部署の設置
今取り組んでいる「PremiumView」の立ち上げ経緯について教えてください。
PremiumViewはTVerなどの放送動画を配信する媒体に、広告をいわゆる運用型で配信できるサービスです。テレビ局がアプリでの配信を本格化し始めた2018年にCCI社内で検討が始まり、電通と協業スキームで立ち上げて今に至ります。
ご存知のとおり電通は日本のテレビCMに対して強みをもっている会社です。そこにCCIが持つ運用型広告を配信する仕組みをあわせることで、新たな一歩を踏み出したテレビ局に対して収益化の仕組みを提供できます。
広告主からすると主に3つのメリットがあります。
1つ目はテレビCM同様にブランドの安全性を確保して広告を配信できます。配信面がテレビ局が制作するコンテンツに限られるためです。
2つ目は地上波テレビ放映+αでテレビコンテンツを視聴したいユーザーに対して、コネクテッドTV、パソコン、タブレット、モバイル機器などを通じてリーチできます。
3つ目として様々なデータを活用したターゲティング配信が可能です。
放送業界との取り組みでは業界の違いを感じることはありましたか。
取り組みの当初は放送局の皆様を困惑させてしまった点もあると思います。これには2つあり、1つ目は、運用型の広告を受け入れていただくことです。そもそも運用型広告とは何か?なぜそんなことをしなければならないのか?ということをご理解いただくところからのスタートでした。
2つ目はCCIという聞いたこともない企業とお取引を開始いただく点です。私たちには日本初のインターネット広告専門会社だという自負があり、業界内で一定の知名度もあります。ですがそれはあくまで広告業界内だけの話です。テレビ放送の業界内で当社を信頼できるパートナーだと認めていただく必要がありました。
いずれも何か突破口があったわけではなく、足繁く通い、膝を突き合わせて双方の課題や目線をすり合わせていくという「基本動作」を徹底することで徐々に進んでいきました。仕事人生で一番エネルギーを注いだことかもしれません。
現在管掌されている部署「ビデオアンプリファイ局」開設と局長就任の経緯について教えてください。
放送動画市場への参入をきっかけに、2019年にCCI社内でも放送動画専門の部署「ブロードキャスティング・ディビジョン」が設置されました。成果もありましたが、運営してみるとうまくいかないことも発生します。
課題はPremiumViewのプロダクトグロースでした。ブロードキャスティング・ディビジョンでは広告会社と放送局に向けて様々なソリューションを提供しており、ディビジョン配下にはソリューション別にチーム(局)があります。
PremiumViewのグロース課題は複数のステークホルダーに影響します。以前はチームを超えた課題に対して社内調整にコストがかかってしまっていました。本来は広告主、広告会社と、テレビ局に対しての価値最大化に時間をかけたいのに、そうなっていない状況がありました。
このため一気通貫してPremiumViewのプロダクト価値向上に注力できるチームを作りました。各ステークホルダーに向き合いながらもゴールは共有し、同じ目線でスピーディーに判断できるようにしました。まだ途上ではありますが、成果は出始めています。

「基本動作」の徹底が道を拓く
仕事に向き合うときに大切にしている考え方などはありますか。
私は奇抜なアイデアやモノではなく、人や企業に対して「基本動作」を徹底できることこそが最も大事でやるべきことだと思います。基本動作とは、人に会い、誠実であり、目線を合わせて寄り添い、課題に対して逃げず一緒に悩み・解決するということです。
基本動作ができておらず、痛い思いをしたこともあります。若手時代にとある案件で設定ミスを犯し、正しく広告配信がされない事故を起こしてしまいました。このとき自身と先方の担当者との関係値を過信して事務的に文書で報告したところ、翌月から当社への発注がゼロになってしまいました。
誰もが知る有名企業の継続性の高い大型案件であり、大変なことになったと青ざめました。
急いで出向いたところ大変厳しくも暖かくご指導いただき、取引自体はなんとか再開することができました。
このような経験を通して学んだことは2つあります。1つ目は、「広告は投資である」ということです。顔も見たことのない相手に数億円を投資することは通常ありません。また自社にとって1千万円の案件でも、プロジェクト全体でみると数十億円、数百億円という場合もあります。もし自分がプロジェクトを率いる側の立場なら、関わるパートナーには生半可な気持ちで関わってほしくはないでしょう。一緒に重みを感じて、同じ目線で考えてくれるパートナーがほしいと思います。
2つ目は、必ず足を運ぶ(訪問する)こと。対面でなければ実現できないことがあります。それは目線を合わせることと、熱量を共有することです。問題やすれ違いは必ずおきますが、熱量が合っていれば修正できます。
私たちの仕事はリスクが高く、ステークホルダーが多く、影響範囲が大きい。だからこそ、基本動作の徹底は絶対です。逆にいうと、基本動作によって得られる見返りもまた大きいのです。
基本動作を継続できれば、たった一人でも物事は切り拓けます。必ずついてきてくれる人が現れて、やがて全員で大きな成果を得ることができる。そう考えています。

今しかない。圧倒的な成長市場で勝負をかける
今後の見通しと課題について教えてください。
生活者によるテレビ番組視聴行動の変化が続き、まだまだ市場の拡大が期待できます。
私たちが取り組む市場でいうと、「放送動画領域のDX」と「紐づく広告販売」が主戦場になると考えています。その中でも、電通グループとして持つ「テレビ領域でのバイイング力」「ソリューション提供ノウハウ」「データ」が差別化ポイントであろうと考えています。
それらを1社ではなく、電通、電通デジタルと協業しながら提供を拡大していくことで、市場におけるシェアナンバーワンを目指しています。
CCI単体でも3つの強みがあります。1つは「長らくデジタル広告販売に携わってきた中でのメディアバイイングノウハウ」、2つめは「放送局に対して基盤となるソリューションを提供してきた信頼感」、3つめは「電通グループにおけるオリジナル商品を構築し続けて来た商品開発力」です。
これらを活かしてもっと前進したいところですが、課題もあります。例えばリソースの確保です。広告主、代理店、放送局からいただくご期待は高まるばかりですが、そのニーズに応えるためのリソースが不足しています。また業務の仕組み化やメンバーの育成も課題です。今メンバーに求められるのは専門性だけでなく、自ら強い意志を持って業務にあたること。期待してくれるステークホルダーに恵まれているからこそ必要なことです。
課題に対しては組織の強化をはじめ様々な打ち手を講じているところです。

将来的には業界におけるDXの中心に存在し、オンオフ統合(*6)の先行者たり得たいです。
メンバーには「仕組みを作り」「知見を提供し」「動画広告価値を高める」という基本的な能力を有してほしいです。
7月からCCIは新会社「株式会社CARTA ZERO」として新たなスタートを切ります。電通グループ各社や各ステークホルダーから「動画であればCARTA」「オンオフ統合であればCARTA」とご指名頂けるのが理想です。
いまの仕事に、ご自身が熱くなれる理由はなんですか。
広告が好きで、テレビが好きだからです。人が生きていく中で、情報を得て判断することは極めて基本的な動作です。その中でも「広告」と「テレビ」は過去の日本において非常に大きな役割を担ってきたと思います。私の人生も、テレビから大きな影響を受けてきました。
その「広告」と「テレビ」がデジタルという一つの技術革新によって変わろうとしている今、この瞬間に立ち会い、仕組みを作っていける立場にあることは、放送100年の歴史でも極めてエキサイティングです。
人が知り、考え、判断するために必要な「テレビ」と「広告」を、今一度再構築するその一端に関わり、価値を残すこと。テレビメディアにとって私たちの仕事が今のこの瞬間お役に立てて、またこの先100年もその価値が残るために、日々学び、基本動作を繰り返し、努力を重ねるのだと思います。

*6 オンオフ統合 = オンラインメディアであるインターネット広告・インターネット上での行動データと、オフラインメディアであるテレビCM・テレビ視聴データを連携させて最適な施策のプランニングと運用を実現する手法。