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テクノロジーの進化

生成AIは「道具」か「パートナー」か?人間とAIの共存を探る

前編では、投資家、事業会社それぞれの立場から、生成AIの衝撃と企業が取り組むべき戦略について考察しました。 後編では、AIと人間の共存がもたらす可能性について、具体的な事例や議論を通してさらに深く考えていきます。(本記事は、人間とAIの共創によって制作されました)

「書く」はもっと進化する。AIとのコラボレーションが導く、創造性の未来

森石 豊氏

Yutaka Moriishi

株式会社スタジオユリグラフ
代表取締役

横浜国立大学卒業後、編集プロダクションにて雑誌ライターとして勤務。その後、動画ディレクター、オウンドメディア編集長、オンライン展示会SaaS事業の責任者を経て株式会社スタジオユリグラフ設立。長年「書く」仕事に携わった経験から文書制作AIアシスタント「Xaris(カリス)」を2022年12月にリリース。プロダクト活用を通じて、ライティング実務への生成AI活用にいち早く取り組む。

スタジオユリグラフ 森石氏:私は長らく「書く」という仕事に携わった経験から、実際の文書制作者のユースケースに特化した生成AIアシスタント「Xaris(カリス)」というプロダクトを開発しました。私のパートでは、より現場サイドに近い事例をご紹介していけたらと思います。

―AI文章作成ツールに潜む落とし穴

よくあるAI文章作成ツールは、「全自動で記事を作成します!」といった宣伝文句を目にすることが多いのではないでしょうか。しかし実際には、生成された記事が、自社の編集方針に合っているか、内容に誤りはないかなど、結局、担当者が細かくチェックする必要があり、新たな負担を抱えてしまうケースも少なくありません。Xarisの場合は、完全な自動ではなく編集やライターの制作プロセスのアシストをすることをコンセプトに置くことで、制作チーム全体のコミュニケーションコストの低下を狙い、結果良質な記事を量産できることが実現でき、ユーザーの高い満足度につながっていると思います。
その特徴として、3つのポイントがあります。
1つ目は、SEO記事の制作です。検索結果の上位を狙いたいキーワードをもとに、その読者像を推定してタイトルや構成、ポイントなどを提示してくれる機能です。本文を書くときは参考資料を調査してきて、その内容をもとに書いて、最後に出典も付けてくれます。導入したクライアントの事例では、月間200本ぐらいの記事制作だったのが400本の製作本数へ倍増し、効率化につながっているというフィードバックをいただいています。
我々の調査では、Xarisの導入前と導入後とで、記事の制作本数およびGoogle検索上位獲得結果が大きく向上していました。

一部では、AIで作成した文章はSEO評価が低いという声もありますが、Xarisでは、SEOに強く、読者の検索意図とニーズを満たす高品質な記事作成を支援することで、検索順位の上昇を実現しています。
2つ目は取材記事の制作です。インタビュー音声からの文字起こしから原稿まで仕上げます。加えてAIがテキスト内容をもとにインタビューの企画趣旨を自分で理解して、その趣旨に沿った構成案と原稿本文を執筆していきます。導入クライアントからは、例えば大学教授とのインタビューというような専門性の高い内容というところも、専門用語や会話の文脈をかなり正確に把握してくれるということでした。
3つ目は解説記事です。例えば20万文字の内容を、1万2000文字前後の記事として要約し構成し直す機能です。
いずれも、記事制作プロセスにおける工数の大幅低減が実現できていると思います。

 

―生成AIと人間の協働によるコンテンツ制作

しかし、実際に生成AIに書いてもらった文章の内容の正確性やクオリティをどう担保するか?というところは課題に思うことがあるのではないでしょうか。
実際の現場では、文章制作のプロセスを細分化して、ここはAIを使い、ここは人が監修をするといった形で組み込まれていることが非常に多いです。文章の叩き台はXarisに作ってもらい、その中で内容が間違っていないかという基本的なチェックや、文章は読みやすいか、追記できる情報はないかというあたりを編集ライターがXarisと一緒に話しながら推敲していくのです。

現状の生成AIは、主にインターネット上の情報をもとに文章を作成するため、まだ完璧ではありません。特に、Web上に存在しない情報や、専門性の高い知識については、人間による確認や加筆が必要となる場合があります。Xarisは、AIと人間の協働によって、より高品質なコンテンツ制作を支援します。AIが生成した文章をベースに、編集者やライターが内容を確認・修正することで、正確性とオリジナリティを両立させることができます。
その事例として、『阿賀北ノベルジャム』という、新潟県の阿賀北地域で行われている小説執筆イベントがあります。それぞれの著者がXarisに相談して、例えば構成を作ってもらうとか、ちょっと悩みを聞いてもらったりとか、あるいは、Xarisが書いた原稿の続きを人が書いて、さらにその続きをXarisに書いてもらって、リレー形式で原稿を作ったりと、面白い使い方をされておりました。

別の事例では、沖縄の小学校で生徒が職場体験をするプログラムの中で最終日に感想文を書くにあたって、Xarisが生徒に「何が楽しかったの?」とヒアリングをしてくれて、それに答えていくことで、自然と自分の書きたい原稿を書けるというものです。内容が違ったら、ここ違うから直してねというような形でお互い推敲していく、という試みをやっております。

教師の方々からは「普段書くのが苦手で集中できずに席を立っちゃうような生徒も、Xarisと話すのが楽しいから休憩時間になっても席を立たずに熱中して文章を書いていました」といったフィードバックをいただきました。いかにもAIにありがちな、みんな同じような文章になるんじゃないかという危惧もあったのですけれども、生徒へのヒアリングからそれぞれの気持ちをまとめてくれるので、ちゃんとパーソナルな内容を書けているということでした。

 

―生成AIが切り拓く「書く」行為の未来

このように、「書く」という行為が、かつてはペンを動かしていたものからワープロが登場することによってタイピングをするというイメージに変わっていったように、生成AIの登場によってまた変わっていくのだなと思っています。

AIに話しかけて何かを一緒に作っていくということが、新たな「書く」というイメージや常識になっていくんじゃないか、そこに貢献できるサービスとして、今後も開発を続けていきます。

ディスカッション:生成AIの未来を語る – 課題と展望、そして日本企業の可能性

生成AIの課題と解決策

―生成AIの課題や懸念、それに対する解決策について、それぞれどうお考えですか?

ANOBAKA 長野氏:生成AIの現在の課題は、多くの人が具体的なユースケースをイメージできていない点です。これは、初代iPhoneが登場したときの状況に似ています。
当時、iPhoneを手にしても、それがどれほど世の中を変えるか、多くの人は想像できませんでした。IT業界でさえ、「これはギーク向けの端末で、一般には普及しないだろう」という意見が大半でした。
しかし、iPhoneが広がるにつれ、ユースケースが明確になり、ビジネスや日常生活に革命的な変化をもたらしました。
生成AIも、今はまだ具体的なユースケースが広く認識されていないかもしれません。しかし、ユースケースが明確になり始めると、一気に普及していくでしょう。
例えば、私たちが投資している会社では、生成AIネイティブな旅行予約プラットフォームのアプリケーションを開発しています。従来の旅行予約サービスでは、旅行の情報を得るために画面をクリックしながら進める必要がありました。しかし、生成AIネイティブのアプリケーションでは、「家族で北海道旅行に行きたいからプランを作ってほしい」とテキストで入力するだけで、最適なプランが自動的に提案されます。こうしたUXは、生成AIの力によって実現可能であり、具体的なユースケースがどんどん出てくると考えています。

 

スタジオユリグラフ 森石氏:よく相談されるのがプロンプトに関する問題です。生成AIは「言葉で指示すれば答えてくれる」と説明されても、具体的な指示の出し方が分からないという声が多く聞かれます。
言葉で的確に指示するのが難しく、これが一つの大きな壁になっています。そのため、プロンプトを入力しなくても、やりたいことをリストから選んで、ボタンを押すだけで実行できるような仕組みが求められることもあります。
しかし、生成AIの最大の強みは、曖昧な指示にも対応できる自由度の高さです。どんな内容の指示でも柔軟に回答を返してくれる点が魅力です。ルールベースで選択肢を細かく絞り込んでしまうと、その自由度が失われてしまいます。
どこまでをシステム側で自動的に処理し、どこから先を生成AIの強みである自由度の高い会話形式に任せるか、そのバランスをどのように設計するかが課題です。これは業界ごとに異なるため、それぞれの業界で最適な均衡点を見つける必要があるでしょう。

 

CARTA HOLDINGS 鈴木:プロンプトを書く際に感じる課題は、効果的なプロンプトを作成できる人が思った以上に少ないという点です。経験上、効果的にプロンプトを使いこなせるユーザーは全体の2割ほどで、それ以外のユーザーは、非常に短いプロンプトしか書けないことが多いです。プロンプトが極端に短いと、生成AIの力を十分に引き出すことができません。
適切なプロンプトを十分に書けない人が多いというのが現状です。そういった課題に対しては、ある程度の「型」を用意することが効果的だと思います。例えば、ベースとなる量のある文章や構造を少し修正してもらうといった形で活用することで、効果を上げることができるのではないかと考えています。

―例えばデジタル担当が事業部側に「何がしたいの?」と聞いた場合、逆に事業部の人からは「AIって何でもできるでしょ」「逆に何ができるの」という、お互いのギャップがあるのと思いますが、その点はどうなのでしょう?

CARTA HOLDINGS 鈴木:知識のギャップは非常に大きな問題です。これはAIに限った話ではなく、テクノロジー全般に当てはまることだと思います。「これができると思っていなかったけど、実はできる」という驚きや、「実は簡単だと思っていたけれど、実際はすごく難しかった」というようなギャップが存在します。
私たちが試みているアプローチの一つは、社内外の事例をリストアップすることです。例えば、動画生成のユースケースについて、マーケティング領域における利用事例をまとめています。また、生成AIの基本的な機能について初心者向けのスライドを作成し、ボトムアップで知識を向上させる取り組みも行っています。
一方で、事業部が何かをやりたいと考えているとき、具体的な内容がわからなくても「もっと相談して欲しい」というスタンスを心がけています。テクノロジーに対する理解度が深いメンバーと協力しながら、知識のボトムアップと並行して、事業のトップラインを伸ばす視点も押さえつつアプローチしています。

 

生成AIの活用が進む分野

―現時点で、生成AIの活用が進んでいるのはどの分野ですか?

ANOBAKA 長野氏:アメリカのスタートアップの見本市として有名な「デモ・デイ」をみると、その6~7割が生成AIネイディブなスタートアップで、その勢いはかなりのものです。分野は様々ですが、生成AIを軸にそれぞれの業界課題を解決します、といったバーティカルSaaSへの投資が加速しているようです。
一方で、日本のスタートアップシーンを見てみると、生成AIネイティブなスタートアップはまだ少ないのが現状です。例えば、スタジオユリグラフさんのように、特定の業界に特化してプロダクトをしっかりと作り上げている企業はまだ限られています。しかし、今後はこの分野が盛り上がっていくのではないかと考えています。

日本における生成AIスタートアップの可能性

―日本初の生成AIスタートアップが少ないということですが、日本にはどれだけ生成AIの事業を展開するポテンシャルがあるのでしょうか。それは果たして世界に通用するものなのでしょうか。

ANOBAKA 長野氏:それは難しい課題です。過去20年のIT業界の変遷を見てみると、日本はプラットフォームを獲得できなかった歴史があります。i-Modeが先行していたものの、アメリカでは失敗しました。それ以降、日本はSNSやクラウドなどの機会がありましたが、結局、プラットフォームを握ることはできませんでした。
生成AIの分野でグローバルに覇権を取れるチャンスがあるとすれば、やはりLLM(大規模言語モデル)だと思います。日本発のオープンウェアで世界に使われるようなLLM企業が出現すれば、世界を取れるかもしれません。しかし、現実にはそれは難しいと思います。
独立系のオープンウェアやスタートアップは、累計で約2兆円の資金調達を行っています。さらに、GoogleやMetaも何千億円もの投資をしているため、日本の生成AI企業がグローバルで勝つのは非常に難しいと考えています。
ただし、悲観的な見方だけではありません。日本には少子高齢化や生産性の低さといった大きな社会課題があります。生成AIは、これらの課題に対する有力なソリューションとなり得ます。日本の生産性向上を目指して、生成AIを活用していくことが重要だと思います。

 

言語と生成AI

―生成AIは市場として大きな可能性を秘めていますが、自然言語処理において日本語を使用することは影響として何か出てくるのでしょうか。

ANOBAKA 長野氏:言語の問題については、意外と深刻ではないと思っています。例えば、私たちが投資している予定の旅行関連の生成AI企業は、日本の旅行情報や宿泊施設、飲食店のデータを基に学習しています。この会社が成功し、海外展開する際には、中国やアジア太平洋地域の旅行データを学習させることで、競争力を持てる可能性があります。
ただ、スタートアップの成長戦略次第によって、言語の問題は影響を受けることがあります。日本語のLLMが必要だという話しはよく聞きますが、鈴木さん、森石さんの見解はどうですか?

 

CARTA HOLDINGS 鈴木:私は、一定の領域において日本語の特化型LLMは重要だと思います。特に医療分野や広告のコピーライティングなど、日本語特有の表現力を高めたり、漢字の変換精度を上げたりする際に、日本語のLLMが効果的です。しかし、知識ベースの観点からは、データとして扱われるため、言語に特に依存するわけではありません。ただし、出力の際に日本語のクオリティを求める場合は、日本語のLLMがあったほうが有利ですね。

 

スタジオユリグラフ 森石氏:これは、プロンプトの質にも関連しています。プロンプトをプログラミング言語のように記述するケースもありますが、文章の質を向上させたい場合、日本語でプロンプトを記述しても、綺麗な文章を生成することが可能です。
過去の生成AIサービスではシステム側でのプロンプトが英語で書かれていることが多いです。この場合、日本語で指示をすると、システムの中でプロンプトが混ざり合ってしまい、現場で使えるレベルのクオリティが得られないことがあります。

なので、言語の問題は一定程度存在すると思います。日本語向けのLLMは必要であり、そのための開発も企業側で進めるべきかもしれません。