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テクノロジーの進化

もう「待ち」の時代は終わり。生成AIがもたらす、ビジネスの衝撃と進化

生成AIの登場は、私たち人類に「創造」の新たな扉を開き、ビジネスモデルから人間の創造性まで、あらゆる領域でパラダイムシフトが起きようとしています。 想像をはるかに超えるスピードで、社会に浸透しつつある生成AIは、私たちに無限の可能性を提示してくれています。 2024年9月、そんな生成AIの未来を担う3社(ANOBAKA、CARTA HOLDINGS、スタジオユリグラフ)による「生成AIで進化するビジネスのいま」をテーマとしたスペシャルイベントが開催されました。 生成AIが切り拓く未来、そして、AIと人間の共創の可能性について議論が交わされたイベントの様子を、前編・後編の2回に渡ってお届けします。(本記事は、人間とAIの共創によって制作されました)

投資家が語る、生成AIの急速な進化とビジネスチャンス

長野 泰和氏

Hirokazu Nagano

株式会社ANOBAKA
代表取締役社長/パートナー

KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。KVPでは5年間で80社以上のスタートアップへ投資。2020年12月ANOBAKAを設立。

―生成AIの衝撃と急速な進化

ANOBAKA 長野氏:私自身、ずっと事業開発をやっていたのですけど、スタートアップのファウンダーというのは、優秀な人というよりも、熱狂を持っている人が最終的に成功しているというのをたくさん見てきました。そのような熱狂を持った人を一人でも多く支援したいという思いで、ANOBAKAを設立し、現在は約180社への投資をしています。

直近20年くらいのIT業界では、いくつかポイントとなる節目があったと思います。まずはiモードがドーンときて、その後、SNS、クラウド、スマートフォン、ソーシャルゲームの大きな波がありました。そして、今回の生成AIも間違いなく大きな波になるだろうという実感があります。
ChatGPTが世に出たのは2022年の11月でしたが、最初に触れたときに衝撃を受けたんです。これはもしかしたら、とんでもないことになるんじゃないかと。マイクロソフトやOpenAIに連絡して、APIが拡充される見込みだという情報をキャッチして、すぐさま生成AIに特化したファンドをオープンしました。
ChatGPTの発表をうけて、Googleが事業に対する深刻な脅威への警戒として「コード・レッド」という発動をしたというのは、ご存じの方もいるかもしれません。要はChatGPTがGoogleの祖業である検索エンジンの事業を脅かすんじゃないかという強い危機感になります。まさに生成AIの誕生というのは、シリコンバレーの中でも大きな激震だったわけです。
これまでもIT業界ではWeb3のブームなどがあったものの、Web3のブームは一時的なものであったという意見もある中で、今回の生成AIのブームは全く違うものなのかなと思っています。

これまでAIのブームは過去3回ぐらいありました。そのうち2回目まではビジネスにつながらなかったんですけど、3回目のブームの時に、ディープラーニング技術がB2Bでの商用利用で成功し始めました。その上で、今回は生成AIやLLM(大規模言語モデル)という技術を用いながらインターフェースを整備して、一気に世の中に拡大したという4回目のブームがあります。このように過去の変遷を経てしっかりと民主化してきているという流れがあるので、これはもう突発的なブームとはちょっと違うのかな という現状認識を持っています。
生成AIの面白いところは、 スピード感が半端ないということです。たった1ヶ月でも情報収集をさぼっていたら、 もう置いてけぼりになってしまう。

この資料は少し古いのですが、この図のポイントはLLMのクオリティの指標となるパラメータ数です。例えば、ChatGPT3.5のバージョンが出たときのパラメータ数は1800億でした。そのたった半年後、ChatGPT4が出たタイミングでは5倍の1兆に達しています。ChatGPT4が出てもう1年以上経っているわけですけど、それ以上の変化はさらに起きていくと思います。
当初はOpenAI(ChatGPT)一強と言われていましたが、2番手のAnthropic(アンソロピック)の方が精度が高いんじゃないかと言われていたり、一方のChatGPT自体も動画をはじめマルチモーダル化したり、それ以外のプレイヤーでも、GoogleはGemini(ジェミニ)、MetaはLlama(ラーマ)を展開して、すごい活況を呈しています。これを見て思うのは、過去のIT業界ではムーアの法則に準拠してビジネスがどんどん拡大していった流れがAIの世界でも到来していると。自分たちも、3年後・5年後くらいに、どんな生成AIプレイヤーが出てくるかというところから逆算して今のビジネスを考えないと置いてけぼりになってしまう。という危機感を持っています。

日本だと、生成AI=OpenAI(ChatGPT)みたいなイメージが強いと思うんですけど、実際に一番勢いのあるのは、 Metaが展開しているLlamaだと思います。実際、シリコンバレーのスタートアップに開発の裏側としてLLMは何を使っているかと聞くと、Llama率が高いです。

独立系のAnthropicも勢いがすごいし、cohere(コフィア)という独立系もかなり強いと思います。ただ、それぞれで資金調達がすごい量で加速しているので、この数年で勢力図が劇的に変わっていくんじゃないかな、という感覚を持っています。

―生成AIの複雑なエコシステム

生成AIのビジネスを語る上で、イメージしにくいのがそのエコシステムだと思います。これまでは、例えばAWSというプラットフォームがあって、そのAPIを使ったアプリケーションレイヤーのスタートアップが生まれ、たくさんのビジネスを仕掛けることによって、市場規模が拡大していくというのがエコシステムの基本路線でした。

いっぽうで生成AIの場合、OpenAIをはじめとしたモデルセット領域(図の下側)のプレイヤーがたくさんいて、彼らが上側のアプリケーション領域もやるのが、生成AIの市場の特徴なのかなと思います。実際にOpenAI自体も自身のChatGPTでどんどんアプリケーションを提供していて、現在は上側と下側のプレイヤーが入り混じっている構造になっているのが、少し複雑に感じさせる点だと思います。
ですが、今後の基本的な構造としては、LLMなどのモデルセット領域のプレイヤーとして存在し、そのAPIを使った上側のアプリケーション領域のプレイヤーがどんどん伸びていく。というものになっていくのではと思っています。

―生成AIネイティブなビジネスの発想が必要

いま、生成AIネイティブな発想での事業開発がまさに求められているな、と思います。メルカリしかり、スマートニュースしかり、当時PCも同じようなサービスあったけども、スマホネイティブの発想で事業を構築して成功してきたした。現在においては、生成AI起点の発想で事業を構築できる人は、今後成功できる確率が高いということですね。

LNMでは、ファインチューニングを通じて、例えば会計・法律・採用などをはじめとした専門性に特化したアプリケーションを作ることが可能です。そういうものを独自で作ることによって、いろんなビジネスが花開くのではないか、というコンセプトもあって、ANOBAKAではあえて既存のファンドじゃなくて、生成AI特化のファンドを作って市場を盛り上げていきたいと思っています。

CARTA Generative AI Labが切り拓く未来 – 生成AIで変わるビジネスの現場 –

鈴木 健太

Kenta Suzuki

株式会社CARTA HOLDINGS
執行役員CTO

2012年株式会社VOYAGE GROUP(現:CARTA HOLDINGS)に入社したソフトウェアエンジニア。入社以降、データ解析基盤およびウェブ広告配信に関わる領域の開発に広く従事。2019年より、グループ会社である株式会社fluctにて取締役CTOを務め、fluct社における経営戦略、ウェブ広告領域でのプロダクト戦略策定、技術方針作りおよびエンジニア組織マネジメントに携わる。2022年よりCARTA HOLDINGS執行役員CTO。
共著「みんなのGo言語」(2016年 技術評論社)、「データ分析基盤構築入門」(2017年 技術評論社)。

―いち早く、CARTA Generative AI Labを立ち上げ

CARTA HOLDINGS 鈴木:今回は、私たちがどのように生成AIの可能性に挑んでいるのか、その取り組みについてお話します。CARTA HOLDINGSは、社員数が1400名を超え、複数の事業会社を擁するホールディングスカンパニーです。私たちは、このような多様な事業構造の中で、生成AIをどのように活用し、推進していくのか、その方法を日々模索しています。

CARTA HOLDINGSでは、生成AIの活用を推進するにあたり、具体的な事業への実装と、グループ全体の業務効率化という2つの軸で取り組んでいます。

1つ目が、事業におけるAIの実装です。これは、各事業のプロダクト機能にAIをどういう風に組み込んでいくかということです。そこから、その事業に特化した形でレバレッジをかけて、業務の効率があがるようにしています。2つ目が、CARTAグループ共通で使われている業務環境(例えばGoogleWorkspaceをはじめとした、様々なサービス)にAIを入れていくということです。
2023年の4月、私たちはCARTA Generative AI Labという組織を立ち上げました。生成AIに触れた時に、こんなに頭のいいソフトウェアはかつてなかったなと思って、これは自分たちの事業に取り込んでいかなければならない。なるべく早く、CARTAの事業に対応できる体制を立ち上げようと考え、進めてきました。

主にやっていることとしては、この表にある4つの領域です。
AI関連のサーベイ、CARTAグループの業務環境へどういったAI関連サービス入れていくのかの検討から、育成面では、社内のエンジニアやビジネス職のメンバーに対して、こういうふうにAIを使ったり、または開発をするとよいよ、などのレクチャーを行っています。そして、事業会社とのPoCも行っています。事業会社からは、様々なニーズが上がってくるので、CARTA Generative AI Labのエンジニアメンバーと一緒になって「それはこういう仕組みでできると思うから、期間限定でやってみましょう」というような形で進めています。
それぞれの事業会社にもエンジニアがいて、CARTAグループ全体で約170人のエンジニアがいますが、事業部側のエンジニアが必ずしもAIに詳しいわけではないので、彼らに対して開発ナレッジを提供するということも行っています。

―生成AIの適用階層と事業階層のイメージ

これはざっくりしたイメージですが、生成AIの導入において、グループ内でどういうふうにレイヤリングしているかという図です。下のレイヤーに行けばいくほど、AIをどう使うかの知識が必要になってくるものになります。
まずはプロンプト支援。これは、LLMで何か指示をだして、そのレスポンスがくるというシンプルなもので、こういうレベルであれば、事業会社側で試すことができるので、このレイヤーは比較的すぐに実現できると思います。
次にエージェントのところ、例えば外部情報を組み合わせて使いたいとか、プロンプトだけで解決できないときなどは、事業会社側で目標を共有してもらいつつ、Generative AI Lab側で技術支援を行っています。
次はファインチューニングです。ここからはさらにAIをどう使うかの知識が必要になってくるのですが、個別のユースケースに対して調整したり、プロンプトベースだとコストが高くつく、エージェントベースだとスピードの問題がある、といったコスト対性能比の検証はファインチューニングで行います。
最後に基盤モデルの選定。多くの選択肢のなかで、個別のユースケースにとって最適な基盤モデルを検証します。
これらの取り組みを具体的な事例を通してご紹介します。今回は、グループ会社であるテレシーとCARTA Generative AI Labが連携し、生成AIを活用した業務効率化を実現した事例についてお話します。

―生成AIで進化する「時間管理」と 仕事効率の「最適化」

吉濱 正太郎

Shotaro Yoshihama

株式会社テレシー
取締役執行役員

2008年web制作会社にデザイナーとして入社。2010年から株式会社medibaにて、キャリアポータルのモバイル広告企画ディレクションを経て、2013年より米アドテク企業ゴールドスポットメディアの日本法人立上げ参画。2015年にMBOにより米国本社から独立し同社取締役に就任、2016年より株式会社VOYAGE GROUP(現 : CARTA HOLDINGS )にM&Aにより入社。2020年よりVOYAGE GROUP ブランド戦略室室長として、テレシーの事業立ち上げに従事。2021年に株式会社テレシー取締役に就任。

テレシー 吉濱:テレシーは、運用型テレビCMを軸とした統合型マーケティング・コミュニケーション・サービスを提供するマーケティングエージェンシーです。マーケティング戦略の立案からCMのクリエイティブ制作、メディアバイイング、広告の効果分析などをワンストップで対応しています。

生成AIの活用事例としては、訴求する商材の課題抽出のために最初に行う分析として「0(ゼロ)次分析」に活用しています。「0次分析」とは、クライアントに提案を行う前段階で、公開情報を活用して顧客に関する情報を収集・整理し、ニーズや課題を明らかにする分析です。しかし、この作業には多くの時間を要します。
このような作業時間を圧縮して、よりクリエイティブなアイデアを出す時間を創出したいというニーズを持っていましたが、単独で解決できる外部サービスがなく、また、サービスを複数組み合わせると利用コストが見合わなくなってしまう。また、解決のために生成AI(LLM)の機能を用いたいものの、技術スタックがテレシー社内の知見として蓄積していなかったといった課題がありました。
そこで、CARTA Generative AI Labと協業して、解決策を模索しました。人力でやると時間がかかるような、商材の情報収集、収集した結果を要約する部分や、それらをファインチューニングしていく部分に対して、AIで対応できる専用のアプリケーションを作りました。

このアプリケーションでは、クライアント商材の情報から抽出したベネフィットを、例えばキャッチコピーなどクリエイティブに活かせるアウトプットまで出せる機能を持ちます。また実装から間もないですが、0次分析における作業時間の33%が削減できています。
アプリケーションの基礎ができれば、CARTAグループの他の事業課題にも横断で応用できるものになってくるので、引き続き投資をしていこうと思っています。

―複数事業・複数プロダクトを持つ組織における、生成AI推進のポイント

CARTA HOLDINGS 鈴木:私たちのように、複数の事業、複数のプロダクトを展開している事業体において、生成AI推進のポイントは3つあると思います。

1つ目は「アジリティ」。これからも事業会社からのニーズはどんどん増えていくので、機動的に支援を実施し、事業会社からアクセスしやすい状態をつくるということです。
2つ目は「知識」。生成AIの動向は毎月のようにアップデートされていくので、クイックに学習する仕組みを作って、 すぐに試せる環境を作る。これが非常に大事かなと思います。CARTA HOLDINGSの中でも、ユースケースに応じて様々なモデルを使い分けているのですけども、そのアップデートに常にキャッチアップし続けるということです。
3つ目は「ガバナンス」。このLLMを使っていいのかどうかとか、これはちゃんとお客様から信頼されるのかどうか、そういった観点が非常に大事だと考えています。

―自然言語でのAI操作が革新をもたらす中、コストの最適化が成功のポイント

私たちが生成AIを用いて事業を運営していく中で、これは大きいなと思っているのが、 インターフェースが自然言語であるということです。今まではプログラマがコードを書いていたことが、みんながそれを言葉でできるようになった。いわゆる企画職の人がプロンプトを変えれば、 その機能性を変えられるということがもう現実になっているんですね。
いっぽうで、生成AIが全てをよしなに解決できるわけではないということです。例えば、 毎回1万文字とか10万文字のプロンプトを突っ込むとすごくコストが高くなってきます。そこで、軽量のモデルをいっぱい使うとか、 そもそもプロンプトをファインチューニングするなど、そのコストとリターンのバランスを意識していくというのは、開発者にとって大事な心構えです。これからも生成AIモデルはさらに早く、安くなっていくので、この技術進化の構成にあった投資をしっかり行っていくのが大事かなと思います。

AIと人間の共存は、私たちに新たな創造の世界を見せてくれるかもしれません。後編では、具体的な事例を通して、その可能性を探ります。