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事業の進化

小売業界の、100年に一度の変革期。最前線でリテールの未来を創るデジクルの挑戦

コロナ禍以降、小売業界にもデジタル化の波が訪れています。アプリやLINEを活用し、小売業のDXを支援する株式会社デジクルは、代表の今井悠介が「東京のITスタートアップのイメージとは違う」と表すように、「現場」を重視した泥臭いアプローチで、顧客との信頼関係を構築しています。リテール以外の領域でも複数の事業開発を行ってきた今井に、デジクルの強みや魅力、事業づくりのポイントなどについて聞きました。

今井 悠介

Yusuke Imai

株式会社デジクル 代表取締役

株式会社CARTA HOLDINGS(旧VOYAGE GROUP)に入社後、グループ会社の株式会社fluctにて広告プラットフォーム事業に従事。fluct執行役員を経てグループ内異動により2018年に株式会社DIGITALIOにて新規事業開発を担当し、2021年に取締役就任(現任)。その後株式会社デジクルの立ち上げに参画し、代表取締役に就任。デジクルではLINEなどデジタルを活用したサービス提供を通じて小売業のDX支援を推進。

いい意味で“サラリーマンっぽくない”社風に惹かれた

―新卒で入社したきっかけについて教えていただけますか。

今井:実は一度、就活を途中で止めており、大学院に進学をするという選択をしています。その理由の一つが、いわゆるJTC(Japanese Traditional Company:伝統的な日本企業)といわれるような会社の働き方や、年功序列の環境になじめないと思ったことにあります。IT分野で学生起業している友人も何人かいたこともあり、どちらかと言えばベンチャー企業の組織風土の方が合うのではないかと感じる中で、たまたま研究室の隣の席にいた先輩が、旧VOYAGE GROUPの会社を紹介してくれたのです。

当時は京都にいたのですが、その会社が京都でアプリを作る取り組みをしようとしていたので、そこにインターンとして参画しました。働いてみると、いい意味でサラリーマンっぽくない、面白い先輩がたくさんいる会社だったのです。その頃、改めて就活も進めていたのですが、私はそれを全部止めてこの会社に入ろうと決めました。

―入社当初から事業づくりに興味を持っていたのですか?

今井:元々そのような気持ちはありました。そもそも会社として新しい事業をどんどん作っていこうという風土でしたし、私は「いずれ起業しよう」と考えて入社しています。先輩や役員の方々も含めて同様の雰囲気だったので、特にそのとき事業アイデアがあったわけではありませんが、自分も事業づくりをすることは当然のように考えていました。

事業開発の肝は現場に赴き、解像度を上げること

―入社後のキャリアの変遷についてお聞かせください。

今井:最初はfluctというグループ会社に配属され、メディアやアプリの広告マネタイズを担う事業部でメディア向けのコンサルタントや営業の仕事を始め、営業企画、プロダクト開発、海外事業などを行いました。このときに、今に通じる事業提携やパートナーシップを構築する経験を積むことができました。

その後、DIGITALIOというグループ内企業に移り、新規事業開発をはじめました。いろいろ模索する中で、最初に作ったのが給与前払いサービス「Remone(リモネ)」です。今も私が事業責任者をしています。その後、デジクルの立ち上げに参画しました。

最初の「fluct」でアドテクノロジー、「Remone」でフィンテック、「デジクル」ではリテールテック。全く異なる領域のビジネスですが、古い産業を新しく変えていく、デジタルによって社会の進化を推進していくことには強い興味があったので、どれもやりがいがありますね。

―事業領域が違うと、ビジネスモデルや組織構造も変わってくると思います。新しい事業をどのように組み立てていくのでしょうか?

今井:新しい事業を組み立てる際は、とにかく現場に赴くことを大切にしています。 結局のところ、その業界のドメイン知識を持って解像度を上げていかないと、ピントの外れた取り組みになってしまいます。

デジクルは、スーパーマーケット・ドラッグストア・ホームセンターなどの流通小売業向けのデジタル販促プラットフォームを開発し、提供しています。ポイントカード・クーポン・販促キャンペーンから、季節商品の予約販売・限定商品の抽選販売まで、あらゆるサービスを通じて小売企業のDXを支援します。

デジクルの立ち上げの際、私のアプローチとしては、まずは可能な限り情報をインプットし、その後、業界に詳しい人に話を聞いて検証します。私は当時あまりスーパーなどに行かなかったので、小売のユーザーでもある、社内で子育てしている人にも話を聞きに行きました。現場の現状を深く理解することで、新しい事業のアイデアや必要な組織構造が見えてきます。

―新規事業を立ち上げる際、最もハードルになる点は何だと思いますか。

今井:事業ドメインやビジネスモデルによりますが、デジクルの場合は小売の業界に入り込むことでした。特に小売業界は参入障壁が高い側面があるので、新参者が入り込みづらいのです。「どこの会社とどんな取引をしているのか」「どんな実績があるのか」などがないと話を聞いてもらえないことが多く、最初の一歩を踏み出すのが本当に大変です。

この壁を突破するために、デジクルは既に小売企業と取引実績のある会社とのジョイントベンチャーからスタートしています。そこにCARTAグループの強みを組み合わせ、彼らの顧客基盤に対してDX支援を進めていきました。

実際、デジクルをジョイントベンチャーとして一緒に立ち上げした会社は「Remone」時代にお会いした会社で、協業検討を進める中で小売業界のデジタル化やDXのニーズを感じ、事業をスタートさせたという経緯があります。

―他の事業でも、既存の接点のある企業からの相談がきっかけで事業がスタートするケースはありますか?

今井:結構多いと思いますね。例えばグループ企業の株式会社ヨミテは、CARTAのメンバーが九州の営業拠点で活動していた時に出会った企業と意気投合したところから、化粧品というCARTAグループには知見のなかった領域に参入しています。他には、出版業界における膨大なコンテンツをデータベース化し、様々なフォーマットやビジネスに展開する株式会社C-POTは、小学館とともにスタートさせました。

また、2019年に資本業務提携をした電通とともに運用型テレビCMを展開する株式会社テレシーを立ち上げ、新たなCMの価値を創出し業績を拡大しています。

もちろん、「このあたりの市場が伸びそうだ」「会社として次にここを攻めていきたい」といった自社起点の参入もあります。事業の立ち上げ方は、ジョイントベンチャーでスタートすることもあれば、社内ビジネスプランコンテストから生まれるものもあり、また取引先との協業が深まっていった結果事業化するものもある、といった具合に様々です。グループ内で事業開発における多様な事例があることが、CARTAの強みかもしれません。

エンジニア含め全員が顧客視点を持って泥臭く行動する

―リテールDXやリテールメディアの分野において、デジクルの強みは何でしょうか?

今井:デジクルの強みは、とにかく現場に足を運んで、顧客と向き合うことです。私たちの顧客である小売企業が取引されているのは、IT企業ではなく、メーカー企業や卸、POSシステムの会社や印刷会社などが多いです。商品はもちろん、レジやチラシなど、小売業の必需品を扱う会社はお店に出入りする頻度が高いので、強固な関係値があるのです。「毎日来てくれて、付き合いも長い」といった会社がいる中で、どう信頼関係を築いていくかが重要になります。

デジクルではアプリやLINEなどのサービスを提供していますが、開発だけをする会社ではありません。お客様の悩みをしっかり聞き、適切な支援を提供する。お客様である小売店と、その先にいるエンドユーザーまでを見据えて、サービスを提供すべく、きめ細かいサポートを心がけています。一見、当たり前のことをしているだけなのですが、きめ細やかさは、他社が真似できないくらい本気で取り組んでいると自負しています。

メンバーが全国各地に出張に行くこともよくあります。リモート会議ができる環境があるにもかかわらず、毎週、誰かが必ずどこかの現場にいる。face to faceの関係で、小売企業と密に関わることを重視しています。

―そのような「泥臭さ」はデジクルのカルチャーなのでしょうか?

今井:「現場に行こう」「お店を見に行こう」というカルチャーが根付いていると思います。例えば、休日にメンバーが旅行に行くときも、現地のスーパーの写真を撮って後日共有してくれます。今も、新しくメンバーが入社するタイミングでもチームのメンバーと一緒に街に出て、店舗やデジタルサービスを体験するツアーを実施しています。小売や飲食店に行って、アプリを体験してみたり、販促キャンペーンに実際に参加してみたり。自社で提供するサービスだけでなく他社の提供するサービスに触れることはプロダクトの改善にも繋がるのでエンジニアも含めて実施しています。

週次のミーティングでは「顧客の声コーナー」を作って、営業やCS担当が聞いた現場のリアルな声を共有しています。それに対し他のメンバーが「これってどういうことですか?」と興味を持って質問することも頻繁にあります。エンジニアも商談に出てみたり、議事録を読んだりと、顧客視点を大事にしているのです。本気で顧客と向き合う。しかもそれを楽しみにしている。これがデジクルメンバーの特徴です。

―メンバーの皆さんは、どのような点にやりがいを感じているのでしょうか?

今井:デジクルの事業は、非常に手触り感があります。例えば、地元で家族がよく行くお店のサービスを自分たちが手がけて、それをたくさんのユーザーが使ってくれる。生活者の目に触れやすい、実際に体験できるという意味で、やりがいを感じやすいと思います。お取引先は全国各地にいるので日本中の小売サービス向上に貢献できることはやりがいに感じています。

変革の最前線で、新しい仕組みをつくる

―リテールDXやリテールメディアはまだまだ伸びしろが大きな市場だと思いますが、今後どのように事業を拡大していく予定でしょうか?

今井:リテールメディアに関して言えば、2027年には2023年の約2.6倍の9332億円にまで拡大すると予測されています(※)。しかしまずは、日本独自の市場環境を考慮しながら進めていく必要があると考えています。アメリカでは既にリテールDXが進んでいますが、日米間では市場環境が大きく異なるからです。

例えば、アメリカでは小売業界の寡占化が進んでおりDX投資も大きく、オンライン購入が浸透しているといます。日本でもコロナ禍で買い物体験は大きく変化し始めており各小売企業が積極的にDXを推進していますが、まだまだこれからと言っていいでしょう。

そのため、リテールDXやリテールメディアを進めていく上では日本ならではの道筋を考える必要があるのです。現在の小売業界は競争が激しく、光熱費や人件費の上昇など経営課題が山積みです。私たちはまず、目の前の小売企業1社1社に、DXを届けるところからスタートしています。

様々な店舗でデジタル化が広がれば、それを広告メディアとして展開できるようになると考えています。

(※)CARTA HOLDINGS「リテールメディア広告市場調査」より

―最後に、リテール業界の今後について、どのような可能性や期待を感じているのかお聞かせください。

今井:広告業界のデジタルシフトには20〜30年かかったように、小売業のデジタルシフトも長期的な視点で見る必要があります。これから10~20年かけて小売業務や顧客体験がDXされていくと考えています。

現在も、まだアナログなオペレーションが多く残っている業界です。しかし、コロナ禍を経て、業界全体が強い変革の必要性を感じ始めています。私たちが感じる面白さは、この変革を推し進める小売業界の方々と一緒にお買い物体験を変えていけることです。

歴史を振り返ると、前回これほど大きなパンデミックが起こったのは100年以上前のスペイン風邪のときです。このタイミングで現在のセルフサーブ方式のお買い物が定着したと言われています。それ以前は、店員さんがお客さんの希望する商品を手渡すスタイルが主流でした。感染症の流行により、人と人との接触を減らすために、お客さんが自ら商品をカゴに入れる方式に変わったのです。

そして今、コロナ禍を経て、セルフレジやスマホ決済の普及など、買い物のスタイルが大きく変わろうとしています。この変革の最前線に立って、新しい仕組みを作れることは、非常に刺激的で面白い環境だと思います。