事業の進化
CCI、メディアレップから総合デジタルマーケティング企業としてさらなる進化を目指す。
合言葉は「to the Front」
(※)Media Representatives の略。広告会社に対して、媒体社の広告スペース販売を代行する企業の総称。海外などでは特定媒体の販売代行事業であることが多い。日本のインターネット広告では、インターネット草創期の広告マーケットへの啓蒙および販路開拓のために設立された。その後、媒体社の多くが広告会社側からのワンストップバイイング機能を求められたことから、取扱媒体数が飛躍的に拡大し日本独自の事業内容となった。
出展:JIAA「インターネット広告基礎用語集 2023年度版」より抜粋
目黒 拓
Taku Meguro
株式会社CARTA COMMUNICATIONS
代表取締役社長
マーケティング市場の変化に呼応するように組織の変革を決断
―インターネット広告の変遷と、それに応じてメディアレップとして広告業界を牽引してきたCCIがどのように変化してきたか、目黒さんの視点で教えてください。
目黒:CCIは、インターネット広告の歴史とともに成長してきた企業です。
CCIの設立は、Yahoo! JAPANが登場した1996年に遡ります。Yahoo! JAPANの広告販売を行うために、国内最大手の広告会社である電通と、当時Yahoo! JAPANの親会社であったソフトバンクによるジョイントベンチャーとして設立されたのがCCIです。
その後、Yahoo! JAPAN以外にも取扱いメディアを増やしながらさまざまなインターネット広告の提案を行い、事業を拡大してきました。
インターネット広告が急速に変化する業界で、CCIもその変化に応じて歩んできました。特に、GAFA(読み:ガーファ Google、Amazon、Facebook、Appleの4社の頭文字をとったもの)といったインターネットプラットフォームの出現は大きな転換点でした。CCIはFacebookやTwitter等のプラットフォームの日本でのローンチを支援しながら、インターネット広告市場の発展に貢献してきたと自負しています。
―目黒さんがCCIの社長に就任した際、メディアレップからデジタルマーケティングへの事業転換を積極的に進める方針を示しました。この背景について教えてください。
目黒:起点となったのは、広告主のマーケティング手法の変容です。それまで広告主のマーケティング戦略は、調査会社が保有するパネルデータやアンケートデータなどを基に分析し、広告プランニングを行うことが主流でした。しかし、2014年頃から、データドリブンマーケティングが主流になり始めました。
データドリブンマーケティングは、従来のパネルデータだけでなく、インターネットプラットフォームが持つオーディエンスデータや、DSPなどの配信業者のデータを包括的に分析し、広告配信やその効果、さらには販売データとの突合せを行いながらマーケティングを展開する手法。この変化に伴い、従来のCCIのビジネスモデルであるメディアレップ事業は、クライアントの要求にマッチしなくなりました。そうした潮流に対応するため、2021年7月に代表に就任したことを機に、「メディアレップからの脱却」を決断しました。
―2014年頃のデータドリブンマーケティングへの変化は、目黒さん自身も感じましたか?
目黒:そうですね。それまで取得してきたパネルデータは、一部のモニターの情報であり、メディアオーディエンス全体のデータとは異なります。一方、プラットフォームが取得するデータは全量データです。つまりリアルな購買者に近い情報を提供してくれる。テレビやインターネットプラットフォームの全量データを統合して分析することで、ターゲットをより明確に把握できるようになりました。全量データがマーケティングにもたらす影響の大きさには、強い衝撃を受け、世の中が変わると確信したのを覚えています。
クライアントが求める消費者心理・行動を深く理解することが重要
―メディアレップからの脱却、デジタルマーケティングへの転換に際し、何に注力しようと考えたのですか?
目黒:まず、データドリブンマーケティングを実現すべく、データのコンサルティングやデータに基づくプランニング設計に力を入れていきます。さらに、広告枠だけでなく、メディアやインターネットプラットフォームが持つさまざまなツールやコンテンツを組み合わせながら、クライアントのマーケティング課題への「ソリューション」を提供することが重要だと思います。
データソリューションやプラットフォームソリューションを軸に据え、クライアントのマーケティング課題に応えた進化を遂げることが、メディアレップからの脱却につながると考えています。
―重点的に注力している領域はありますか?
目黒:前提として、企業のマーケティング課題は年々複雑化しています。これはオーディエンスの趣味・嗜好が多様化したり、SNSの使い方も属性によって異なったりすることが要因です。複雑化するマーケティング構造に対して、すべての課題に対応することは難しい。そこで私たちは、データマーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、eコマースの3つの領域を戦略の骨子としています。
データマーケティングでは、APIを活用してデータを分析し、クライアントに提供しています。ソーシャルメディアマーケティングでは、各ソーシャルメディアのオーディエンスデータを分析し、企業が抱える課題解決に適したコンテンツ活用やコミュニケーション戦略を提案。そして、今や当たり前になっているeコマース戦略の支援をします。これらの専門領域における知見とソリューション、提案力と実行力を活かし、クライアントのマーケティング活動をサポートしていきたいと考えています。
―新たな方向性を示す一方、長年メディアレップとして業界を牽引してきたCCIの強みもあるかと思います。
目黒:メディアレップとして活動してきた経験から、CCIはメディアやプラットフォームに関する広範かつ詳細な専門知識も持っています。しかし、ただ単に知識があればいいわけではありません。広告主が心から知りたいと思っているのは、どうすれば自社商品やサービスの魅力が消費者に伝わり、彼らに購買してもらうことができるか。だからこそ重要なのは、メディアやプラットフォームの先にいる消費者動向についての理解です。
例えば、Instagramで広告を展開する場合、その広告によって消費者にどのような心理変容や商品理解が起こり、その結果としてどのような情報拡散などの行動が生まれるのかを深く分析する必要があります。広告主の立場になり、消費者を理解しその分析力を高めていくことは、CCIがずっと大事にしてきたことであり、当社の強みでもあります。
それに加え、長い歴史の中で媒体社と築いた確固たる信頼関係もあります。媒体社との深いつながりを土台に、時代に合わせたソリューションを提供できるのがCCIの強みだと思います。
―デジタルマーケティング事業へと方針転換したことで成功した事例を教えてください。
目黒:あるエンタメ系企業のファンマーケティングを成功させた事例があります。過去のマーケティングでは、リーチが重視され、多くの人々に商品やサービスを知ってもらうことが目標でした。しかし最近は、ファンマーケティングという言葉も誕生するほどファンの獲得が重要視されています。単に知名度を高めるだけではなく、ユーザーのエンゲージメントを促進する必要があるのです。そのクライアントも、ユーザーとブランドの結び付きをより深め、ファンを育成していくことが課題となっていました。そこで当社では複数のソーシャルメディアを活用した提案を行いました。
具体的には、そのエンターテイメントをファンがどのように楽しみ、何を好んでいるのか、その情報をInstagram、TikTok、Facebook、Xなどのソーシャルメディアを通じて収集・分析し、そのファンの嗜好性やトレンドに合わせたコンテンツ情報発信を行うことを繰り返していく。結果として非常にエンゲージメントの高いファンを多く獲得することができました。
―クライアントからはどのような声が挙がっていますか?
目黒:ブランドの世界観とソーシャルメディアの特性がマッチし、ファンマーケティングを良い方向に進められたことで、高い評価を得ています。今後は、オーディエンス分析に加えて、新たなオリジナル商品の開発など、さらなる施策の展開を考えている最中です。
こうしたファンマーケティングに関する課題を抱える企業は増加傾向にあります。デジタルマーケティング事業として、オーディエンスデータとさまざまなメディアを活用し、マーケティングの可能性をどんどん広げながら提案をしていきたいです。
メディアレップからの脱却、「to the Front」を合言葉に広告主へバリューを提供
―社長就任後、障壁となったことを教えてください。
目黒:大きく分けて二つあります。一つは構造が複雑化する広告市場の中で、自社の存在意義を示していく難しさがあったことです。広告市場の商流は媒体社から広告主・クライアントまでの間にさまざまな中間業者が介在しています。CCIがメディアレップとしての役割や価値を明確に見出す必要性と向き合うことが多かったですね。そうした背景もあり、先ほど申し上げたメディアレップからの脱却を銘打ち、新たなソリューションを生み出す企業としてスタートしようと決断したのです。
―もう一つの障壁はなんですか?
目黒:二つ目は、広告主との関係構築です。メディアプラットフォームに強いというのは言い換えると、広告主との距離が遠いということでもあります。もちろん広告主のニーズやマーケティング課題もキャッチアップしていますが、より強める必要があった。
そこで、私が社長に就任した時、社内に標榜した合言葉が「to the Front」です。広告会社と協力して前面に立って広告主の課題を引き出し、バリューを提供していく。その想いを込めた言葉です。社員全員が広告主とのコミュニケーションを積極的に図ろうとする意識を持つ組織となることを目指しています。
―「to the Front」を打ち出し、社員の反応はどうでしたか?
目黒:社員全員が「to The Front」を意識し、実行してくれている印象です。トップダウンで行動指針を示すと社員はなかなか行動に移せないこともありますが、社員はみんな私と同じ課題感を会社に抱いていたのだと思います。「もっと広告主に直接向き合わなければならないのではないか。」それを明確に言語化したものが、「to the Front」だったのだと思います。私も朝会などで繰り返し発信しますし、社員にとって納得感のある言葉だからこそ、自然と社内に浸透していきました。
―CARTA HOLDINGSグループ の一員だからこそ成し遂げたいことを教えてください。
目黒:CARTA HOLDINGSには、CCIのほかにもいろいろな事業会社が存在します。fluctというプログラマティックの広告配信プロダクトを持つ会社や、テレシーというテレビ広告を専門に扱う会社もあります。その中でCCIは、CARTA HOLDINGSの中でも広告主、広告会社代理店やメディア企業との接点が圧倒的に多い会社です。その立ち位置とノウハウを活かして、さまざまなサービスを展開している事業会社のハブとして、事業成長に寄与していきたいです。
―インターネット広告市場とCCIの今後の展望を教えてください。
目黒:そもそも広告とは、メディア/プラットフォームが有する優良なコンテンツに隣接して、企業の製品やメッセージを発信する機能です。
そして、我々広告関係者はメディアコンテンツと広告とを無意識に区別してしまっています。
ところが、オーディエンスからみた時に、メディアコンテンツと広告の間にあまり区別はありません。面白い、興味があるコンテンツは、オーガニックであろうと、広告であろうと、コンシューマージェネレーテッドであろうと一緒です。
特にインターネット広告は、オーガニックコンテンツと広告コンテンツの壁が低い構造です。
この構造をもっと活かせれば、企業のメッセージや商品理解の効果を上げることができる。そして、その効果をデータによって可視化できれば、よりROIを意識した広告計画を策定することができます。
CCIは、オーガニックコンテンツと広告コンテンツの距離が近いインターネット広告の構造を活かし、「to the Front」の活動によって広告主への提案を強化していきます。
そして、その活動がインターネット広告市場をより発展させることができると信じています。
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