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経営の進化

「論理」を土台に「感情」に向き合う。D2C社長・岡 勇基が“対話の扉”を開き続ける理由

組織統合に真正面から挑むトップのリアル

小・中・高の部活動では、3度にわたって副キャプテン。自ら前に出るよりも「一歩引いて」全体を見るタイプだった青年はデジタル広告業界の荒波を経て、組織を導くリーダーになりました。株式会社D2C 代表取締役社長・岡 勇基は、複数の組織統合を成功に導いた実績を持ち、現在は自社とCARTA HOLDINGSとの大規模な組織統合の最前線に立っています。 異なる価値観を一つに溶かし合うために、大切にしている哲学とは。岡が歩んできた軌跡とその思考の核心に迫ります。

岡 勇基

Yuki Oka

株式会社D2C 代表取締役社長
CARTA HOLDINGS 取締役執行役員
CARTA ZERO 取締役

2002年、大和ハウス工業株式会社に入社。2005年に株式会社D2Cへ入社し、営業本部 本部長などを経て、2014年よりD2C R、D2C dot、イメージソース、D2C IDなどグループ各社で取締役や代表取締役社長を歴任。2026年1月に株式会社D2C 代表取締役社長に就任。現在は、株式会社CARTA HOLDINGS 取締役執行役員および株式会社CARTA ZERO 取締役を兼任し、グループの組織統合および事業推進を牽引している。

「前に出るタイプではなかった」学生時代

―これまでの経歴について教えてください。どのような学生時代を過ごされていましたか。

学生時代は、ずっと野球をやっていました。小学校から高校まで続けていて、いわゆる野球少年でしたね。ただ、正直に言うと、自分がどこまで本気だったのかはちょっと疑問というか……。後悔も山ほどあります。
大学では真面目に勉強一筋というタイプでもなく、その時々で好きなことに打ち込んでいました。旅行が好きで、特に海外に行きたいという思いが強く、お金を貯めては出かけていました。

―子どもの頃から、周りを引っ張っていくタイプだったのでしょうか。

そんなことはなくて。小・中・高と、振り返るとずっと副キャプテンをやっていました。3回チャンスがあって、3回とも副キャプテンだったんです。
そこまで大きなコンプレックスというほどではないんですが、「キャプテンになれない何かが、自分にはあったんだろうな」と、どこか客観的に自分の立ち位置を見ていましたね。結果的に、一歩引いて全体を見るような役割に回ることが多かったのだと思います。一方で、自らキャプテンとして前に出るほどの強い意思が、当時の自分にあったかというと、そうではなかった。
そんな思いをどこかに抱えたまま社会に出て、その後、さまざまな組織の長を任せてもらうようになりました。そこで初めて、「あの頃の自分と何が違うのか」「どうすれば違う自分を表現できるのか」ということを、真剣に考えるようになりました。

「崖っぷち」の覚悟でデジタル広告業界へ

―岡さんのファーストキャリアは、住宅メーカーでの営業職。その後D2Cに転職され、黎明期のデジタル広告業界に足を踏み入れます。どのようなきっかけで転職したのでしょうか。

ハウスメーカーでは戸建て住宅のBtoC営業を担当していました。営業の仕事は好きでしたが、一生に一度の買い物に本気で向き合うお客さまに、こちらは“仕事として”向き合っている。そのギャップにどこか腑に落ちないものを感じていて、自分にはBtoBの方が合っているのではないか、という思いがありました。
そんな中でたまたま目にした求人がD2Cでした。広告業界に強い関心があって飛び込んだというよりも、偶然に近い。ただ「どうせやるなら、まだ出来上がっていない業界で挑戦したい」という思いはありました。
ちなみに、25~26歳の自分にとっては、BtoBとBtoCはまったく別物に見えていたのですが、その後、営業として経験を積む中で、実はBtoBもBtoCも本質は変わらない、と気づくことになります。

―転職後の数年間をどのように過ごされていましたか。

崖っぷちに立っているような感覚で、自分にプレッシャーをかけながら仕事をしていましたね。当時は一社で定年まで働くことが美徳という空気が、まだまだ強かった時代でした。一度選んだ会社で結果を出せずに辞めてしまった。その事実とはきちんと向き合わなければいけないと感じていました。「ここで結果を出せなければ、次にどこへ行っても同じことを繰り返すだけだ」と自分に言い聞かせていました。
また、もともとマネジメント職には興味があったので、やるなら早くそこに到達したいと思っていました。上司にも「最短でマネージャーになるにはどうすればいいですか」とはっきり聞いていましたね。

―「崖っぷちに立っている」という状況から、営業として手応えを感じた瞬間は覚えていますか?

広告主を担当する中で、ある大きなクライアントの取引がどんどん拡大していったことが一つの手応えでした。その後、私が別部署に異動した際、「君じゃないと困る」という声が上がったとき、自分が誰かの役に立てていると初めて実感できた気がします。そういった出来事が重なって、「営業としてやっていけるかもしれない」と思えるようになりました。

実績を積み上げ、社長に就任。データマーケティングへと舵を切る

―「もともとマネジメント職には興味があった」とのことですが、社長を目指そうと明確に思うようになったきっかけはありましたか。

最初に意識し始めたのは、2013年にD2Cの第二営業本部の本部長に就任した頃ですね。本部長は責任が大きい職ですが、最終的な意思決定権は社長にあるため、できることには限界がある、とも感じていました。
また、ちょうどその頃D2Cではグループ会社戦略が進んでおり、いくつかの子会社が設立されました。私は2014年4月からD2C Rの取締役になりましたが、このときくらいから「どうせやるなら社長を目指したい」と本気で考えるようになりました。

―社長を目指すにあたって、なにか行動を変えたことはありましたか。

特別な努力をした感覚はあまりありませんが、自分の意思をきちんと発信することは強く意識しました。副キャプテンの話ともつながりますが、以前はどこか一歩引いてしまうところがあったので、「自分はこう思う」という意見を明確に表明することを意識的に続けていました。

―そして、2015年にD2C Rの社長に就任されます。その後同社は、業界に先駆けて「データマーケティング」「データを活かしたファンの創造」という方針を打ち出しました。岡さんは当時、どのような考えからこの方針を定めたのでしょうか。

2015年から2016年頃、当時描いていた事業戦略の見直しを行っているタイミングでした。競合各社も同じような取り組みを始め、差別化が難しくなっていたのです。そこで着目したのがデータ活用でした。
私たちは当時からアプリやゲーム領域のデータを詳細に蓄積できており、「誰がどのゲームをどのレベルまで進めているか」「どこで離脱しているか」といった状況が可視化できていました。それをフル活用することで競争優位を築こうと、比較的早い段階でデータマーケティングに振り切りました。
当時掲げたテーマは「顧客のサービスにファンを創造する」ということ。デジタル広告では獲得件数や獲得単価で評価されがちですが、クライアント企業が本当に求めているのはその先、つまり獲得したユーザーがどれだけ長くサービスを使い続けファンになってくれるかです。ゲームで言えば「レベル10で離脱するユーザーが多い」というデータを元に、その原因をデータで読み解き、施策を考えるといったご支援をしていました。短期的な数字を追うだけでなく、クライアントの事業と長く向き合っていくために、「ファン創造」というテーマに行き着いたのです。

不格好でも逃げない。激動期こそ「対話の扉」を開き続ける

― 岡さんはその後、D2C IDの設立や現在のCARTAとの経営統合など、組織統合という難局に幾度も向き合ってこられました。組織を一つにまとめていく際、ご自身の根底にはどのような哲学があるのでしょうか。

たとえばD2C IDを設立した際は、ロジカルなマーケティング会社と、職人気質なクリエイティブ会社という、まったく文化の異なる2社を統合することになりました。使う言葉も評価の基準も違う者同士を一つにするわけですから、当然反発や衝突も生まれます。 そういう時に、新しいリーダーが上から無理に組織のルールを変えようとすることがありますが、私はそれは本質的ではないと思っています。 効率だけを考えれば、トップダウンでどちらかに強引に統一してしまう方が簡単です。しかし、それぞれの強みやプライドを失わせないためには、時間はかかっても、両者の間に立って泥臭くすり合わせを続けるしかありません。まずはメンバーとしっかり会話をし、人と組織を理解することが何よりも重要だと考えています。

― 激動の環境下で社内のコミュニケーションが停滞した際、岡さん自らがパーソナリティを務める社内ラジオを開始されたと伺いました。

2025年に入ってからグループ会社の再編や社長交代があり、経営からの発信が一方通行になって現場に閉塞感が生まれている時期がありました。そこで広報チームから、社内ラジオの提案を受けたのですが、社内からはセンシティブな時期ゆえに「すべてをクリアに話せない状況での発信は、現場に余計な不安を与えてしまうのではないか」と慎重な声も上がりました。 しかし、私はそれでも発信すべきだと思ったのです。すべてを完璧に伝えられなくとも、この瞬間、少しでも知りたいと思ってくれる社員がいるなら、私たちが今話せることを真摯に語り、経営陣自らが「扉を開けて待っている」状態を作ることが何より大切だと考えました。結果的に全9回配信したのですが、後日ある社員から『率直な疑問にNGなしで答え続けていた姿が印象に残っている』と言ってもらえたときは、不格好でもやってよかったなと思えましたね。

―現在進めている D2CグループとCARTAとのPMI(Post Merger Integration:経営統合後のシナジー最大化を目指す統合手法)は、異なる歴史や文化をもつ会社同士の組織統合という意味で、また違った難しさがあると思います。 進めていく上で 、工夫されていることはありますか。

「ロジカルさ」と「感情」は切り分けて考えるようにしています。 CARTAもD2Cも、目指しているゴールは同じです。それは競争優位性をつくること、市場でのプレゼンスを高めること、そしてユニークな存在であることです。
では、ゴールに向かってどう物事を進めていくか。それを考えるときに必要となるのが、ロジカルな判断です。特にPMIにおいては、「逆の立場だったらどう考えるか」という視点を常に意識しています。D2Cの主張だけでなく「CARTAからどう見えているか」を想像する往復ができて初めて、ロジカルな議論が成立すると考えています。

―「ロジカル」というと、ひたすら正論を突き詰めていくようなイメージがありますが、相手の立場に立ったときの整合性を大切にすることも、「ロジカルさ」の中に含まれているのですね。もう一方の「感情」についても教えてください。

論理的な破綻はなくても、「なぜこうなるのか」「納得しきれない」といった感情は誰にでも生まれます。それ自体は否定すべきものではありませんが、私の中では順番が大事だと思っています。
まずロジカルにゴールと手段を整理する。その上に感情が乗る。ロジックと感情を横並びにしてしまうと議論は混乱しますし、感情が先に立つと、方向性を見失いかねません。あくまでロジックを土台に、その上に感情を重ねるという順番を大切にしています。

経営者の力量を形作る、2つの条件

―PMIに限らず、岡さんはリーダーとして、さまざまな側面で組織作りに携わってこられました。その中で、大切にしている考え方はありますか。

「組織はリーダーの力量以上に伸びない」という言葉をよく思い浮かべます。D2C Rの社長になった頃から、会社の中で起きることはすべて自分の責任だと自然に思うようになりました。良いことも悪いことも含めて、会社で起きる出来事はすべて自分ごとだと捉える。よく「組織は自分の姿見だ」と言いますが、まさにその通りだと思っています。

―リーダーや経営者の力量や器とは、どんな条件で構成されていると思いますか。

まず一つは、「逃げないこと」です。問題が起きたときに、「あの部署が悪い」「あの人の判断が悪かった」と評論家のようになるのではなく、自分ごととして逃げずに引き受けられるかどうか。
もう一つは、「構造的に物事を考えられること」です。組織や事業を感覚だけでなく、構造として捉えられる人は、経営に向いていると思います。私は10年ほど前に当時の社長からよく「一言で言うと何なんだ」と問われていました。複雑な事業や組織も、構造を掴めば本質はシンプルに言語化できます。そこに至るまで考え抜くことが、経営者の役割なのではないでしょうか。
私は社内でよく「水の流れ」の話をします。水は自然に任せていれば流れるはずなので、どこかでせき止められるとすれば、必ず理由があります。組織や事業も同じで、流れが止まるところに課題がある。それを構造的に理解し、流れを取り戻す。そこに、経営者の仕事があるのだと思います。

マーケティングの在り方を次のフェーズへ進めたい

―新しい仲間を迎えるとしたら、どんな人と一緒に働きたいですか。

D2Cに向いている人を表すのに、私は「自走自責」という言葉を使っています。「自走」は自分で走ること、「自責」は自分で引き受けることです。ただし、ここで言う「責任」は失敗の責任を取れという意味ではなく、自分の意思で決めたことを最後までやり切る覚悟を持とう、という意味です。
私たちが取り組む「Single ID Marketing」はまだ発展途上の領域で、完成された正解があるわけではありません。だからこそ、正解を与えられるのを待つ人よりも、「自分はこうしたい」と意思を持って飛び込める人と一緒に仕事ができたら嬉しいですね。

―最後に、岡さんがこれから生み出していきたい進化、あるいはご自身の進化についてお聞かせください。

自分自身の進化、と言われると少し難しいのですが、会社として、そして個人として目指している方向ははっきりしています。
これまでのマーケティングは慣習や経験則、センスといった世界観の中で判断されてきた部分が少なくありませんでした。もちろん、マーケティングにおいて欠かせない要素ですが、それだけでいいのだろうか、という思いがずっとあります。
私たちは経験則やセンスを否定するのではなく、それを支える土台としてのデータマーケティングを実装していきたいと考えています。センスの裏側に構造があり、直感の背景にデータがある。そういうマーケティングの形を作っていきたいのです。
これはD2C単体の話ではなく、CARTA HOLDINGS全体として取り組むテーマでもあります。感性とデータを対立させるのではなく、感性を強くするためにデータを使う。その在り方を、これからも追求していきたいと思っています。