カルチャーの進化
一人の限界を知ったリーダーが、フラットな組織を「勝つための戦略」へと変えるまで。
事業解散を経てアップデートし続ける、これからの「強いチーム」の定義。

「個人の力」を信じた若きリーダーは、挫折の果てに何を学び、いかにして「組織の力」を信じる経営者へと進化したのか。
情報の透明性を武器に、現場の知恵を引き出し、不確実な変化を乗りこなす。藤井が試行錯誤の末に辿り着いた、強いチームを創るための経営哲学を紐解きます。
(※)Supply-Side Platformの略称。ウェブサイトやアプリなどの媒体社(メディア側)が広告枠の販売を効率化し、収益を最大化するためのシステム
藤井 洋太
Yota Fujii
株式会社fluct
代表取締役CEO
根底にあるのは「何かを創りたい」というシンプルな欲求
―はじめに、CARTAへ入社した経緯を教えてください。
事業を創りたかったからです。もともと何かを創ることが好きで、学生時代は映画やプロモーションビデオの制作に夢中になっていました。企画を立て、仲間を巻き込み、新たなモノを生み出す。そのプロセスそのものに面白さを感じていたんです。
その後、ビジネスサークルでの活動を通して、戦略を描き、人を巻き込み、形にしていく過程に映画制作と同じような楽しさを覚えました。映像という枠にとどまらず、世の中の「仕組み」そのものを創り出す。そこに強い魅力を感じてこの道を志しました。
面接で「いつか事業を作りたい」と夢を語ると、「いいね。じゃあ『いつか』と言わず、来週からやってみようよ」と言われた衝撃が入社の決め手でした。
実際、入社直後から数々の立ち上げを任され、そこで培った「思考するより即実行」という精神は、今の私の経営判断の基礎になっています。

想定外の事態で事業消滅。挫折が変えたマネジメント観
―入社以来、ゼロイチの事業創造に情熱を注いでこられたわけですが、キャリアの中で特に印象に残っていることはありますか。
間違いなく、自分で直談判して立ち上げた事業会社を、自らの手で畳んだ経験です。 当時、キャラクターIPを活用したスマートフォンの着せ替えアプリを展開し、事業は非常に順調でした。ユーザーの方々にもご愛用いただいていましたし、チームの雰囲気も最高でした。しかし2016年、事業の根幹であった協業先のプラットフォームが、バックエンド技術を切り替えるという決定を下しました。これには国際的な契約変更が絡んでおり、規約上、私たちが展開していたビジネスモデルが継続不可能になってしまったのです。
―まさに青天の霹靂ですね。
ええ。ただ、指をくわえて見ていたわけではありません。日本がダメなら海外ではどうかと、それこそ世界中を飛び回り交渉を重ね、一時は復活の兆しが見えたこともありました。1年ほど粘ってあらゆる手段を模索しましたが、どうシミュレーションしても事業継続は難しい。
これ以上粘ることは、リーダーとしての責務ではなく、僕自身のエゴになってしまう。優秀な仲間たちをこれ以上巻き込むわけにはいかないと判断し、最終的には自分の手で事業をクローズしました。当時の無力感や悔しさは今でも忘れられません。ただむしろ「ここまでやって無理なら、もう個人の努力でどうにかできる問題じゃない」という一種の納得感のようなものもありました。
―この経験が今に生きていることはありますか。
マネジメントスタイルの変化でしょうか。以前は自分が先頭に立って戦略を描くスタイルでしたが、個人の能力がいかに高くても、外部環境の変化という大きな波には抗えないことを痛感しました。どうすれば組織として生き残る確率を上げられるか考え、「自分一人で正解を出す」ことをやめ、「自分にはない強みを持つ仲間の力を借り、チーム全員の知恵で戦う」ことに決めました。どれだけ優秀でも、一人の人間が見えている範囲には限界があります。でも、異なる視点を持つメンバーが3人、4人と集まれば、変化の予兆にも気づけるかもしれない。それが変化の激しいこの業界で勝ち抜く道だと確信したんです。
―その姿勢がfluctのカルチャーにもつながっているのですね。
その通りです。2020年にfluctに参画した際、私が最も意識したのはfluctの母体でもあるVOYAGE GROUPが元来持っていた「フラットな文化」を、単なる「仲の良さ」ではなく「勝つための戦略」として徹底することでした。アドテクノロジー業界は変化が激しく、会議室の戦略よりも現場の一次情報のほうが正しいことも多い。そんな状況で周囲の顔色を伺い意見を飲み込む組織は、変化の波に飲み込まれてしまいます。
ただ、自由に意見を言える環境があっても、その土台となる情報が不足していれば、正しい判断や提案は生まれません。そこで私は、情報格差をなくし、誰もが自分の意見を正しく持てるように、できる限り情報をオープンにすることを心がけました。例えば、全体公開のチャットグループでの発信を原則とし、四半期ごとの全社集会でも会社の現在地を包み隠さず共有しています。特に全社集会は、トップからの一方的な報告の場ではなく、役職・職種の壁を超えて語り合う「対話の場」としても機能するように設計しています。

一方で、制度だけではカバーできない部分も大切にしています。 様子がいつもと違うメンバーがいたらすぐに話しに行くなど、意外と泥臭くウェットなコミュニケーションも欠かしません。
そうやって、「情報の透明性」と「心理的な距離の近さ」の両面から、一人ひとりが自律的に動ける土壌を耕し続けてきたのです。

現場の知恵が道を切り拓く。苦境を乗り越えた「フラットな組織」の底力
―そのチーム力が試された象徴的な場面はありますか。
2025年上期、fluctは創業以来の厳しい局面に立たされていましたが、これを乗り越えられたのは、間違いなくチームの力があったからだと思います。
主力事業の広告単価が下落したことが、業績に大きく影響したんです。まずは市場環境の変化に対応するため、事業と組織の再構築を行いました。既存のSSP事業は維持に努めつつ、新規事業に注力し顧客単価の向上を目指す戦略に転換しました。
―社員の反応はいかがでしたか。
不安を感じたメンバーもいたと思います。ですが、変にオブラートに包んで伝えられるより、ありのままを共有して「じゃあどうするか」を考えるほうが、fluctのメンバーらしい。だから私から全社員に対し、厳しい数字も現状も、包み隠さず伝えました。「このままではマズい。だが、こうすれば勝てる」というプランを、明確に示したのです。
―そこから劇的な回復を遂げられた要因は、どこにあったのでしょうか。
私たちが大切にしてきた「フラットな組織」の真価が発揮されたことです。つまりトップダウンではなく現場から建設的な提案が生まれ、組織として変化に適応できたこと。これに尽きると思います。
日頃から、役職や職種の壁を超えて誰もがフラットに意見を言える環境を大切にしてきた。そうした土壌があったからこそ、私が示した方向性に対して、現場がただ従うのではなく、「だったらこんな手が打てる」という建設的な提案がボトムアップで次々と湧き上がってきたんです。
―「現場」からの提案が大きかったということですね。
そうです。例えば、エンジニアチームがサーバーコストを約30%も削減する技術的な手法を実現してくれたのも、その一つです。これは「コストを削れ」と上から命令したわけではありません。彼らは「この状況なら、以前から温めていたこの技術実装を急ごう。そうすればコスト構造が変わる」と、自ら判断し、即座に実行してくれました。
ビジネスサイドも同様です。情報をフラットに共有したからこそ、全員が『自分たちの会社だ』という当事者意識を持って動くことができ、最短距離で復活できた。トップは『事実』を隠さず伝え、現場が『知恵』で応える。この「信頼と自律」のサイクルこそが、変化の激しい局面での最大の武器になったと確信しています。

さらなるプロフェッショナル集団を目指して。「個」が立つ組織へのアップデート
―今後組織としてさらに強化していきたい部分はどこでしょうか。
「フラット」であることと「何でもあり」なのは違います。 次のステージへ進むためには、組織としての規律や基準(スタンダード)を一段引き上げる必要があると感じています。
具体的には、「暗黙知の形式知化」と「プロフェッショナルとしての自律」です。 これまでは「背中を見て覚えろ」といった属人的な成長に頼る部分もありましたが、事業が社会的責任を伴う規模に拡大した今、それでは間に合いません。高度な知識やノウハウを組織全体で共有・言語化し、誰が担当しても高いパフォーマンスが出せる仕組みを作らなければならない。 組織として守るべきベースラインを整えた上で、一人ひとりが戦略を描き、リーダーシップを発揮できる。そんな「自律したプロフェッショナル集団」へアップデートしている最中です。

「fluct 3.0」始動。デジタルの枠を超え、社会を支えるフェーズへ。
―今後の展望について教えてください。
fluctはパブリッシャー(メディア)を基点に事業創造していくことは今後も変わりません。その一方で、デジタルがすべてに浸透した世界では、より広範な意味でのパートナーシップが必要だと考えています。 自分たちが今まで知らずに引いていた枠をいかにはみ出していけるか。今、私たちは「fluct 3.0」という構想を掲げています。「1.0」がPCメディアの収益化支援、「2.0」がスマートフォンアプリ向けの広告事業だとしたら、「3.0」は一言で言えば、「fluctがあらゆるところに在(あ)る」世界です。TVerなどのコネクテッドTV、タクシーサイネージ、リテール(店舗)メディア。デジタルがすべてに浸透した今、fluctの技術は生活のあらゆるシーンの裏側で機能し始めています。
―ここに、NTTドコモグループとの連携が加わるわけですね。
その通りです。日本最大級の顧客基盤とメディアを持つNTTドコモグループと一緒になることで、これまで我々単独ではリーチできなかった領域への挑戦が可能になります。 ドコモのIDデータとfluctの技術を掛け合わせることで、パブリッシャー(メディア運営者)の収益化支援はこれまでにないレベルへ進化します。今後は「枠」をはみ出して、まだない価値をパブリッシャーの皆さんと共に創っていく。 そんな「進化」を、最高のチームと一緒に楽しんでいきたいですね。
―最後に どんな人に仲間になってほしいですか。
変化を恐れず、むしろ楽しめる人です。安定したレールの上を走りたい人には、正直おすすめしません。外部環境はこれからも間違いなく変わりますし、そのたびに僕らは姿を変える必要があるからです。でも、「変化」をポジティブに捉えられる人にとっては、これほど面白い環境はないと思います。
fluctは今、第二の創業期とも言える面白いフェーズにいます。赤字も黒字も、成功も失敗も、すべてを自分ごととして楽しみながら、一緒に「進化」を作っていける人と働きたいですね。



