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VOYAGEのトップエンジニアが語る、機械学習とDSP・アドネットワークの可能性
新しい領域に取り組んで、今は未知や不可能だと思われていることを現実化させていきたい
西林 孝
Takashi Nishibayashi
株式会社Zucks エンジニア
ーー西林さんがVOYAGEに入社されるまでの経歴を教えてください。
西林:2003年に新卒で入社したのは、システムインテグレータの会社です。就職氷河期の名残がある時代で、「雇ってくれる会社にいこう」という気持ちで就職しました。企業向けのオーダーメイドシステム構築に5年ほど携わっていましたが、当時の会社の旧態依然な開発スタイルが体質に合わず、そこを脱したくて、2008年頃ソフトウェアベンダーに転職しました。パッケージソフト開発とSaaSの2社経験しましたが、特にSaaSではより少ない人数でプロダクトを多くの利用者に提供できることを実感しました。少人数で利益を出せた方がシンプルに儲かりますし、インターネットサービスには夢があるなと改めて感じましたね。
そこからは急激にブラウザが良くなり、多くの人がWeb上で良い体験ができるようになりましたよね。この先Webアプリケーションの体験を良くする仕事が重要になると思い、フロントエンド開発に力を入れていました。
ーーVOYAGEに入社されたのには何かきっかけがあったのでしょうか。
西林:前職でもモバイルアプリの開発に着手していたのですが、ずっと一人でつくるのはしんどい部分があり、もう少し規模の大きい会社で取り組みたいと考えていたところだったんです。あとは、当時スマホが普及し始めた2011年頃で、Webブラウザ以上にネイティブアプリの操作性や機能性の高さを感じていました。
そんな時にVOYAGEの前身であるECナビがモバイルアプリをつくれるエンジニアを大量に募集していたんです。アプリ開発に深く関わりたいと思っていたタイミングとちょうど重なったので、転職することを決めました。入社後はモバイルアプリの部署に配属されたのですが、間もなくして異動となりソーシャルゲームをつくったり、新規事業部の立ち上げに関わったりといろいろと経験し、2015年から現在のZucksに所属しています。
遊ぶような感覚で学び、新しい分野を次々にインプットしていく。それが純粋に楽しい。
ーー所属されているZucksではどういうことをされているのでしょうか。
西林:ひとことで言うと、データサイエンスです。ユーザーがクリックした広告情報やユーザー属性、アプリのインストール履歴といった配信ログデータを活用して、広告主にとっても媒体にとっても効率的な広告運用をできるようにするのが役割ですね。そのための手段として、今は機械学習をメインに取り組んでいます。
現在、ネット広告業界では機械学習を使用するのは一般的になってきています。ネット広告では膨大なデータ量を扱わなければいけないですし、クリック単価や広告枠オークションの入札額を1日に100億回以上決める必要がある。人間のオペレーションだけでどうにかなる領域を超えてきているんです。機械学習で求めた予測値と数理最適化を使えば、データに基づいた意思決定の自動化ができるようになり、ベストな広告を選択するのも容易になります。まさにデータサイエンスの重要性が高い分野だと思っています。
ーー今後、ますます機械学習の重要性が高まっていきますね。西林さんは、もともと機械学習の知識はおありだったのでしょうか。
西林:「パターン認識と機械学習」という超定番な本は読んでいました。2012年頃から勉強会にも何度か参加していたので、ある程度土台となる知識はあったとは思います。勉強会では、各自で実装を持ちよったり、Pythonで結果を可視化したりしていたので、そこで機械学習の面白さは感じていました。なので、機械学習についてどこかで教えてもらったということではなく、本や勉強会で自ら学んでいったというような形です。ただ趣味の範疇でやっていたことなので、まさか仕事で使うとは思ってもいませんでした。アウトプットできる場があるのは、よかったです。
ーー勉強会というのは、複数人で集まってという形ですよね。そういった勉強会にはよく参加されているのですか。
西林:そうですね。遊びの延長線上のような感覚です。インターネットが当たり前になりコンピュータの性能もどんどん上がり、新しい分野をインプットする場所に参加するのは純粋に楽しいんですよ。例えば、MicrosoftがKinectセンサーという名前でXbox用に出した距離画像センサーがあるのですが、それまで数十万円もした産業用機器が2万円で買えるのは衝撃でした。その距離画像センサーを利用して、現代アートをやっている友人と一緒にアートスペース用の展示をつくったりもしました。
その他にも海外のデータマイニングの学会に毎年参加しています。インターネット広告は応用分野なのですが、トップ企業がどんな事をやっているのかそのレベルを探りに行く感覚です。国際会議で発表された内容が、その翌年くらいには自分の業務でも対応が必要になるので、海外のカンファレンスに参加すると問題の先取りができて良いです。
アウトプットの場だと最近ではIBISという日本で一番大きい機械学習の研究会に参加して、アドネットワークのクリック単価を最適化する手法と実験結果をポスター発表してきました。まだ社内で実験段階のものではありますが、情報を整えて外に出すことで、機械学習の産業応用に積極的に取り組んでいる企業だと社外に示すことができますし、それが採用活動の一環にもつながればいいなとは思っています。
数値予測だけではなく、どうビジネス転換できるのか思考する実践的なインターンシップ
ーー講師を務められたインターンシップ「ADVENTURE」について教えてください。テーマや内容はどのように決めていかれたのでしょうか。
西林:コンペ形式のプログラムにすることは前から決めていました。ただ技術系のインターンシップをおこなっているベンチャー企業は増えていますし、Kaggleのようなプラットフォームができ、機械学習モデルのコンペに誰でも参加できるようになった今、数値予測をするコンペは珍しくもなんともない。重要なのは、予測値を出したうえで意思決定までできるアプリケーションを実装すること。予測値を出しただけではあまり意味がなく、その予測値からどういった行動をとっていくのかが重要なんです。
それを踏まえ、アドネットワークの広告配信ロジックを開発からデータ分析までできる教材をつくったんです。広告リクエストを受けた時点で「どの広告を選択し、クリック単価をいくらにするか」の決定処理をおこない、コンバージョン数やメディア収益といった結果を確認するところまで取り組める環境を整えました。
ーーなるほど。教材をつくる上で特に意識した点などはありますか。
西林:やはり参加者がなるべく現場に近い体験ができるよう工夫しました。機械学習を研究している学生さんはかなり増えてきていますが、ビジネスで使うとなると数値を予測して終わりではありません。広告の場合は、広告主とメディアの双方にメリットがある形で広告を出さなければならないですし、配信業者や広告枠の入札に関わる立場の人もいる。どういう結果になれば、全員が満足したうえで利益を出せるかという考え方を習得してもらえるよう心がけました。
あとは機械学習も完璧ではないので、予測が外れた場合のリカバリー手段も準備しておかなければいけません。エンジニアリングはもちろん大事ですが、サイエンスや経済学の要素も加味しなければ、ビジネスとして成立しないという点は意識しました。せっかく参加してもらったので、「物足りない」と思われないよう、3日間では絶対解けきれない問題量を用意し、実践的な技術や考え方をインプットできる内容にしました。
ーー入社されて9年を迎えますが、VOYAGEの特徴はありますか?
西林:大きな会社だと開発部が切り離されているパターンも少なくないんですけど、うちは事業部の中にエンジニアがいるから、セールスや運用のメンバーとも連携を取り易いんです。また事業のミッションや目標など、同じベクトルを向いて業務に取り組めるのが利点だと思います。完全に分業だと、不具合が出てもすぐにアクションできないもどかしさがありますが、VOYAGEはそういったことがあまりないです。
あと、部署にもよるとは思いますが、VOYAGEは上司が手厚く面倒を見て部下の仕事をつくってくれる会社ではないので、生き残れたら強いです(笑)。自分の思考やビジョンが明確で、自ら考え行動に移せる人にとっては、チャンスが多い環境ではないかと思います。私自身も若手にはなるべく研究会など発表できる場を与えるようにしています。
ーー最後に、これから取り組んでいきたい事などを教えてください。
西林:今はまだ弊社サービスは世界の当たり前のレベルに追い付いていない点が多々あります。例えば、うちでは手作業でクリック単価の調整を行ったりもしています。世界基準で見たときに、配信サービスだとおそらく人の手は介入していなく、すべてアルゴリズムで動いているところも多いはずなんです。
広告運用で人間が時間をかけるべきなのはクリエイティブやコピーだと思っているので、システムと人間の役割を明確にして、効率的に試行錯誤できる仕組みをつくっていきたいです。現状ですと、人手も足りなく、商材の増える速度に対してロジックの開発が間にあってないのがもどかしいところです。
また、データサイエンスや機械学習に取り組んでいて感じるのは、現時点で活用されている分野が限られていること。例えばデータから因果関係を捉えるのはあらゆる業界で求められるはずで、故障の予測だけでなく故障の原因は何かという解釈を見い出す事に繋がります。因果推論という分野が関係してくるんですが、こうした新しい領域に取り組んで、今は未知や不可能だと思われていることを現実化させていければいいですね。